おじいちゃんが譲ってくれた
タイムマシンはポンコツで
どこへ行くのか分からないこともある
望んだ場所に行ける確率は7割
人生と一緒だって
おじいちゃんは笑ってた
小さなことだけどね
できなかったことを叶えてくるよ
明日
最初で最後の旅に出る
黒にすっかり飲み込まれてしまえばいい
「夕日のオレンジと闇のコントラストが
寂しいんだ」
そう言ったら
「どうして?」と
無邪気な顔をする君は世界の中心
「輪切りにしたミカンにチョコかけたお菓子はすきでしょ? 一緒なのに」と
笑う君が教えてくれた
日常を少しだけキラキラさせる魔法
例えば
ドーナツの「穴」は食べられること
枯れ葉と霜柱は踏んで歩くこと
会いに行こうと思えばすぐにできたのに
変な意地を張って
先週は海の底に沈んだ
ヒトデの数をかぞえたってちっとも楽しくない
君が迎えにきてくれるなんて
千に一つもないけれど
もう夜になったなら
君のいる美しくやさしい世界に帰る
出掛けよう
何も持たなくていいから
むしろ身軽な方がいい
オレンジ色の夕日に
木々が影絵みたいになって
行ったこともないサバンナを想像する
雪を見たいっていう
君の世界はポップで色鮮やか
ガムボールマシンみたい
銀世界
「寒い」って肩を竦め笑った君の上には
ずっと昇ったままの三日月
数をかぞえる
深く潜っていけるように
息を止めて目をつむって
「よいお年を」
そう言ってそれっきり
きっと「寒いね」とか言いながら
日の出を一緒に見るはずだったのに
気持ちがほんの少しすれ違っただけで
こんな遠くにきてしまった
もしできるなら
空が青い鏡のように晴れた日に
幸せだなとか思えたら
ずっと一緒にいたいと伝えるんだ
今日も満員で、周りからのお喋りが聞こえる。
「おはよう」
「おはよう、今朝も寒いね」
いつもと同じ挨拶を交わす。
「そろそろ、マフラーが必要になってきたね」
「冬って感じだよね」
外はだいぶ寒くなってきたみたい。朝晩の冷え込みも厳しい。
「そういえば……」
真ん中にいるコの方を見て、声をひそめる。
「あのコ、調子悪そうじゃない?」
「うん、顔色悪いよね……」
「こんなにぎゅうぎゅうじゃあね……」
「早く、出たいよね」
そんなことを言っているうちに、真ん中のコは運び出された。
「やっぱりね」
周りのコたちもつられて調子を悪くしているみたいだ。みんなでいるのは楽しいけれど、あんまりにくっついているのはよくない。
(明日は……)
最後の日だと誰かが言っていた。何が最後なのかは分からないけれど、みんな外に出られるといい。