【脳裏】
あの時
どうしてやさしい言葉をかけてあげられなかったかなって
ずっとそれだけ
【意味がないこと】
一筋の光が差すこともある
一瞬だけど救われたような気持ちになって
それも勘違いかもしれないけれど
信じたかったり、縋ってみたかったり
自分がここにいることの意味
考え始めたらぐるぐるしちゃって
いっそ穴でも掘って、ずっと埋まっていたいとか思ったりもするんだ
全部全部全部
今ここでこうしてることですら、意味がないんじゃないかって思えてしまう
タチの悪い風邪でもひいたんだって思えるといいのにね
味のしないご飯を食べるほどつまらないことってないからね
意味があるんだって、自分じゃない誰かに言って欲しいんだ
誰かに必要とされたかったり、誰かの支えになりたかったり
いつかヒーローとか救世主が現れると思ってるし、待ってるよ?
「意味」なんていらない世界へ行けるといいね
だから意味がないって考えることも意味がないのかもね
遠くに行ってみたいんだ
遠くへ遠くへ
誰の手も届かない遠くへ
金木犀はもう香った
香りに誘われるまま
あの時遠くへ行ってしまえばよかった
空気が乾いてきたらもうダメだ
ただ透き通って
色も音もない世界をここで見たくなる
だから今
遠くへ行こう
【夜景】
――観覧車、昼間と夜、どっちがいいんだろーね。全部見えちゃうのと全部見えないの。
昼間は景色が絶対キレイだよ? 海も見えるだろーし。キラキラ光ってるよきっと。
夜は、夜景がキレイだろーねぇ。深い海に沈んでく感じかなぁ。夜をかき混ぜるスプーンになれるよ。
「どっちがいい?」
聞かれてうっすらと笑う。
「ちょっと今、スプーンになりたくなった」
「でしょー? じゃ、夜ね」
【空が泣く】
神様のところで雨を降らすのが、今の仕事。その前のことはよく分からない。気づいたら雲の上にいた。
「雨、降らしてみる?」
神様に聞かれて、ジョウロを渡された。
(これでまけばいいの?)
雲の上からは色んなものが見えた。
「いい人がいたら、教えてね」
神様はそう言ったけど、それ以上は教えてくれない。だからどうやって探すのか、「いい人」がどんな人なのか、探してどうするのか分かんなかった。でもどうも、「いい人」が見つかったら、雲の上にはいられなくなるらしかった。
(ずっとこのままじゃダメかな)
神様のお手伝いで、雨を降らせる。気楽で、結構自分向きかもと思っていたのに、さよならしなきゃならないのは、残念だった。だから、そんなに熱心に探してたわけじゃない。でも、「いい人」は見つかった。ずっと呼ばれていたような、不思議な感じだった。
「神様、いい人、見つけた」
報告すると神様は、「ああ、よかったね」と、にっこり笑った。
「そうだ。ジョウロ、持っていってもいい?」
「まだまだ使うからね、置いていって」
「また、誰かが来るの?」
頷いた神様がじっとこちらを見る。
「行ってらっしゃい」