あなたがあなたの思いどおりのあなたじゃなくても私はあなたが好きなことに変わりはないし、あなたがあなたを否定しても私はあなたのことが好きだよ。たったそれだけを許せないひと、あなたが求める私はきっと初めから宇宙のどこにも居ません。
煩い流星群が流れている、自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定自己肯定、自己肯定の行列はやがてゲシュタルト崩壊する、だから列に並ぶのをそっと抜け出すひとがいる。
足下ばかり見ていないと石が転がっていることにも気づけない、一寸先の闇へ飛び込むつもりで転んでいるんだ、大河はそれこそを盲目と呼ぶ。
あなたはあなたのままでいい。
あなたを嫌いなあなたがいい。
あなたを許せないあなたの、硝子のようなはかない気高さを愛している、だからどうか砕けそうなまま走っていって。
(理想のあなた)
遡ることができるなら変えたいのは私の未来なんかじゃなくて、ただ貴方に会いに行きたいな。これからを見つめつづけることならできるけれど、これまでは知ることしかできないし、貴方のすべてが記された図書館には幾重にも鉄条網が張られていて、永遠に通行許可が下りない。
貴方の心を覆っている棘は硝子のように透き通って綺麗だけれど、其処にはあまりに明確な拒絶と断絶が立ちふさがって、私達の目を遠ざけようとする。頑強な城壁にはなにものも近寄れず、触れることができない花が咲く、いつまでも散らないことは美しいけれど残酷だと思いながら、気づけば私達は其処へ近づこうとしていた事を忘れている。
いつも高い塔の上から私を見下ろしているあのひと、あのひとはなぜあんなに寂しそうな目をするのだろうと思いながら、いつしか忘れてゆく。届かなかったということを私達は身勝手に拒絶する。貴方を笑わせる方法がどうしてもわからなくてつらいから。
そうなる前に城を燃やせば幸せにすることができましたか。そう言ってもきっとあの乾いた目で笑われるのだろう。すべてを慈しむ貴方の本当は時間の海に流されて、もう還る方法を忘れている。
(失われた時間)
未来のことなんて誰にもわからないけれど白か黒かなら白がいい。なんて、あたりまえのことを言うひとには誰かを刺す気なんてないのだろうし、だからきっと息をするように人を刺している。
刺された傷口がひらくのは明日かもしれないし、一年後かもしれないし、ずっと気づかずに、或いは気づかないようにして、ただほほ笑みながら白い未来を歩いているひともいる。真っ赤な足跡がみえるのは後から来た私達だけだ、来た道をふり返らない人の脚はいつも傷だらけだ。
太陽がまぶしくて背を向ければいつも黒しかみえないのは私の影がどこまでも延びているからで、一寸後の闇を断ち切るには鋏が必要だ。どこに落ちているのかもわからないそれを探し回っているあいだに秋は過ぎゆく。
桜が散るたびに終わりつづける。終わって、終わって、どこまで終わりつづけても、たとえどれほど遅くとも、いつかあなたがあなたのための武器を手にすることを祈っている、眠る時間の前にはきっと。
貴方の眼のなかに深海を見るのは私が貴方をなにも知らずにいられるからだ。塵芥の雄弁が埋まる水の底では沈黙だけが宝石だよ、その光だけが世界を照らしていることだけは知っている。貴方のうつくしさだけが正しいから太陽はいつも東の海に寄り添いたがるんだ、深海に居る貴方だけがそれを知らない。
なにかを思うことも許されないと勘違いするのは私の勝手で、本当は許さないとさえ思ってもみなかったのでしょう。驢馬の耳には名前さえ明かさなくていいから貴方がいい、秘密は海底に穴を開けてしまうから、打ち上げられた魚たちはゆく先を知らない。