お題[恋か、愛か、それとも]
今日も目が合った。すぐ逸らされたけど。
「最近よく目が合うなぁ…」
彼女は数年前から通ってくれてる常連客だ。すっかり大人びたな。なんて思いながら見つめていると、何かを探している様子。この見渡しのいいカフェの店内で何を探すというのだろう。不思議に思った僕は、彼女に近付き声を掛けた。
「何かお探しですか?」
少し躊躇したあと不安そうな顔で、ここに来ると視線を感じることを打ち明けてくれた。恋人が行方不明になっていることも、捜査に進展がないことも。何年も彼女を見てきた僕には知らないことなんてなかった。もちろん恋人の行方も知っている。それでも、不安そうな彼女を見ていられなくて
「お家までお送りしますよ。僕がついています。」
なんて言ってしまった。やってしまった…と焦る僕とは裏腹に、彼女は嬉しそうな顔を見せてくれた。
やっとここまで漕ぎ着けた。
お題[約束だよ]
たまたま入ってしまった教室。あの子に目を取られている隙に、足早に去っていくスラックス。
揺れるスカートに、赤く染まる耳。
ここには2人きりなのに、あなたの目に私は映らないのね。
小指と小指が交わる。
自然と綻ぶ頬。
私には向けられることのない、その嬉しそうな笑顔に耐えきれなくなって、そっと目を逸らした。
「ごめんね」
そう呟く私に不思議そうな顔をする。
あぁ、どうかこの子に幸せを…
お題[傘の中の秘密]
コンビニで買った真っ黒な傘。せっかく可愛く着飾ったのに。天気予報に嘘をつかれた。気分はどんより。ため息が出るのも仕方がない。
「デートの日くらいお天気でいてくれてもいいと思わない?」
なんて不貞腐れる私の横であなたは、濡らした左肩を隠しているつもりらしい。
普段より近い距離に心が踊ったのはないしょ♪
お題[雨上がり]
傘を閉じた空には、七色の光が見えた。どんよりとした空気が澄んでいくのを肌で感じた。
「今日はオムライスにしようかな」
溜まった洗濯物と冷蔵庫の中身を頭の片隅に、スーパーへの道を急ぐ。タイムセールが始まってしまう。