私の故郷は、名前も知られていない小さな孤島にある
村中に草木が芽吹き、人々はどんな場所でも民族歌を歌い、踊っている
とても、自由な島だ
私は、その自由よりも自由を求めるという、今考えればとても愚かな夢を持った
誰よりも、自らの幸せを求め、危険な冒険に身を投ずるその姿に心惹かれてしまった
海賊になりたかったのだ
あの島で暮らすことほど幸せで、素晴らしい『自由』はなかったというのに
母はとても反対していた、父がいなくなった今私の家族はあなたしか居ない、と
私はその考えすら否定し、更にはくだらない暴言を吐き捨てた
本当に愚かだ
だが、最終的には、母も私の気持ちを理解し快く送り出してくれた
あのころの私は、彼女の心の中に眠る不安には気づけなかった
唯一、私の心をこの島に引き止めたのは、幼なじみの少女
その島で代々伝わる、初代開拓者の子孫
特徴的な、金髪に緑眼、その目に浮かぶ水が私の心を奪った
私が仲間を引き連れ、海へと旅立つ数秒前まで駄々をこね
「行かないで……置いて行かないでッ!お願いッ……」
と、綺麗な顔をボロボロにして言った
まぁ、どれだけその顔が汚れていても、この世で1番美しい事に変わりはないのだけれど
だから、その細く白い体と黄金の髪を抱きしめて、この世で1番綺麗な呪いをかけてあげたのだ
「あいしているよ」
それが3年前の話
今では私も大人の女性になり、男に負けない腕っ節と『船長』という肩書きを引っさげてこの海で名を轟かせていた
正直、こんなにいっぱい言葉の装飾品を飾って、どうしたものかと思っている
「船長!島が見えましたっ!」
クルーの1人が太陽の下、眩しそうに目を凝らし遠くを見つめて叫んだ
私と共にあの島からここまでやってきた仲間たちも、久しぶりの故郷に期待を膨らませ、瞳と汗を輝かせていた
船を港につけ、母の墓の元へ花を手向けた
クルーは、もう酒場で宴を始めている
後で迎えに行く頃にはもうデロデロに酔っていることだろう
少女は、島で1番大きい風車の傍に住み、働いているそうだ
その話を聞き、なんとも彼女らしいと思った
その場所は、私たちが始めて出会った場所だった
綺麗な花が一面に広がる夏、迷子になった私を見つけ出したのが彼女だ
今思い出しても笑えてしまう
飛んだ恋愛ストーリーだ、奇跡とでも言おうか
私と同じように歳を取った彼女に思いを馳せながら、森をぬけ、気がつけば当たり一面が向日葵で埋めつくされていた
「…………──ッ!?」
遠くから、彼女が私の名を呼ぶ声がする
ガサガサと向日葵をかき分けて現れたかと思うと、ガバッと両腕を開き、私を包み込んでしまった
「愛してるよッ!!」
と、挨拶よりも先に私が言うはずだった台詞を横取りされた
彼女の額に輝く汗と、私たちを覆い隠す向日葵、遠くで鈍く動く風車
ここにある全てがあの夏の日の『風景』と重なる
「私の方が、もっとあいしているよ、ルナ」
倍返ししてやったら、ポカンと口を開けたあと、太陽に負けないくらいの笑顔で笑った
【風景(あいしてるを添えて)】2025・4・12
夏の青い、どこまでも広がる空の真下で、アイスを頬張り、木陰のベンチに座る
風に乗ってなびく、君の黒髪
揺れる度に、私の目の前で艶々ときらめかせて泳いでいる
「もう、夏だね」
と、額の汗を拭って、アイスの棒を口に咥えたまま微笑む
夏の太陽よりも眩しい笑顔で、瞳を輝かせて
私の、肩まで切りそろえられた髪の毛も、彼女の髪と共に風に吹かれる
こんなとき、私はいつも自分の長い前髪を恨む
だって、何よりも愛おしいあなたの顔が見えないんだもの
【君と僕、ときどき私】2025・4・11