『星空』
僕は夏の大三角形が見つけられない。
「ほらっ、あそこにおっきくて明るい星が三つあるでしょ?」
お姉ちゃんはそう言って、小さな瓶の中に入った金平糖を一つ口に放りこんでごりごりと音を鳴らした。
「星がいっぱいありすぎて分かんない」
僕は探すのを諦めて布団に潜り込んだ。
「もう、すぐいじけるんだから」
お姉ちゃんは手に持った金平糖が詰まった瓶をからからと音を立てながら回すと、「よしっ分かった!明日はもっと星を減らしてきてあげる!」と気合が入った声で言った。
「昨日も同じこと言ってた」
お姉ちゃんは昨日から、僕のために星を減らしてあげるからと言って張り切っていた。そんなことできるはずないじゃんと、ぼそっと僕は呟く。
すると、次の日の夜。本当に星が減っていたのだ。
「どう?見えるようになった?」
お姉ちゃんは昨日よりも減った金平糖が入った瓶を片手に尋ねた。
「まだ分んないけど、星は減った気がする」
「まだだめかぁ」とお姉ちゃんは溜め息まじりにそう呟くと、瓶の蓋を開けて「半分も減らしたのになぁ」と言いながら、金平糖をぱくぱくと食べ始めた。
「もう、こうなったら、明日はデネブとアイルタイルとベガだけ残すしかないかぁ」
そう言ってベッドの上に寝転がった。
次の日の夜。
夜空を見ると、本当にデネブとあるタイルとベガだけが夜空に光り輝いていた。
「夏の大三角形だ!」
僕はこのとき初めて夏の大三角形を見ることができた。
「すごいでしょ?ちゃんと夏の大三角形が見えたでしょ?」
お姉ちゃんは自慢げに言った。
「うん!本当にすごいや姉ちゃん!でもどうやって減らしたの?」
「私がお星さまをたくさん食べたからよ」と、お姉ちゃんは片手に持った瓶を覗き込みながら言った。
僕も瓶を覗き込むと、瓶の中に入った金平糖は、あと三つだけだった。
『神様だけが知っている』
神様はなんでも知っている。
神様は存在しているもの全てを知っている。
だけど、唯一、神様にも分からないことがある。
それは、存在していないもの。
存在していないものだけは、神様にも分からないのだ。
だけど、存在していないのに、存在していないという概念を知っている。
存在していないものを思うことができないことも知っている。
存在していないという言葉があることを知っている。
神様は思った。
存在していないものはないと。
存在していないという言葉が、存在していることを否定しているだけだと。
否定というツールは、存在がないと使うことはできない。
最初から存在していないのなら、否定するものが存在していないということになる。
存在していないという言葉は、「存在している」に「無い」という否定をくっつけただけだと。
だから、存在しているものだけが存在しているのだと。
神様は存在しているもの全てを知っている。
人間が存在しているもの全てを知ることができなくても、
神様だけが「知っている」ことを独占しつづけるであろう。