私はクロミちゃんのグッズを集めるのが好きだ。
でも私の家は田舎にあるので、
お店にあるのは
歯ブラシスタンドや
ヘアクリップなど
私があまり使わないものばかりだ。
今日は本屋さんに
大好きな漫画の発売日だから、それを買いにきた。
レジに行こうと少し歩いたところに、
クロミちゃんが目に映った。
日記帳の表紙に
大きく描かれたクロミちゃんは
すごく可愛くて
思わず漫画と一緒に買ってしまった。
帰る途中、
私は飽き性で日記を書き続けられたことが
ないことを思い出した。
しまったなぁと少し後悔したけど、
これも何かの縁だと思うことにして、
久しぶりに日記を書いてみようと
家のドアを開けた。
せっかくだから、
日記を書き続けたいと思えることを書きたいと思い、
15分ほど考えた結果、
毎日の不安、怒り、悲しみ、嫉妬など
表に出したくないネガティブなことを書いた。
そしたら気持ちが楽になって、
ずっと書いていたい。
自分を隠していたいと
ちょっと違う方向へ向かってしまった。
だから、ポジティブなこともたまに書いた。
そしたら日記帳が
私の全部になった。
自分はどうしたいんだろうと悩んでる時、
日記を見返したら気持ちが固まった。
そんなことがよくあるようになった。
今も私の日記帳は
カバンに入れて持ち歩いている。
日記の最後の文には
私と日記帳を出会わせてくれた
大好きな漫画の一言をいつも書いている。
"Good Midnight!"
ネガティブになる日があれば、
ポジティブになる日もいるよね、と、
夕焼けを見ながら心の中で囁いた。
個性的な雑貨屋さんに入った。
道に迷った時に偶然見つけた
秘密基地みたいなところ。
中に入ると少しひんやりしていて
天井の装飾たちが出迎えた。
絵画はどこか懐かしい風車の絵だった。
売ってるものはどれも
見たことがないものばかり。
小さなカフェがすみっこにあって、
丁度小腹が空いていたし、
ケーキでも食べようとメニューを開いた。
フクロウに似た店員さんに
カラフルなモンブランを注文し、
テーブル席へ歩いた。
黒猫の置物があったので
向かい合わせに座った。
モンブランを食べてる間、
置物が
何も言わずに待っていてくれている様に思えて
少し嬉しくなった。
店員さんに会釈をして
店を出ようとした時、
"Good Midnight!"
と、店員さんが言った。
話す言葉もオシャレな人だなぁと思った。
外に出ると、
辺りはもう暗くなっていた。
明日も
もう少しだけ頑張ってみよう
と、
フクロウと猫の声を聞きながら
白い屋根の家へ帰った。
何もかも上手くいかない日が続いてる。
と、仲のいい友達にLINEを送ろうと
文字を打った。
ちょっと考えて、
送らずにスマホを閉じた。
上手くいかないことだらけなのは本当のこと。
頻繁に無くし物をしたり、
自販機でミルクティーを買おうとボタンを押したら
1つ右を押してしまって
おしるこが出てきたり、
こんなことばっかりだけど、
相談するのはなにか違うと思った。
かといって1人で抱え込みすぎるのはよくない。
いつもここで悩んでしまい、
結局ただ運が悪いだけだと思い込んでた。
でも最近はあるアプリを入れた。
惹かれる画像に
短文を添えて投稿できるアプリ。
私のやるせない気持ちは
全てそこに集まっていった。
「好き!」といういいね機能もあって、
承認欲求もそれなりに満たされる。
お昼ご飯を食べ終わった後の
ちょっと暇な時間、
寝ようと思うも寝れない夜の
少し孤独を感じる時間、
ちょっとした空き時間でも
そのアプリを開くようになった。
そうしたら段々と
上手くいかないことは日常から消えていき、
私には
またいつも通りの日々が戻ってきた。
それでもアプリの使用は続けている。
今は
好きな物のこと、
楽しいと感じたこと、
最近の趣味などを投稿してる。
そして今日も
私は電車に乗っている間に
私が大好き好きな漫画の一言を投稿する。
"Good Midnight!"
この世界の誰か2人が
「好き!」を押してくれて、
嬉しくて、電車の中なのに
少しにやけてしまった。
こうやって私は
残りの人生を歩んでいくんだろうと
電車に揺られながら思った。
何十年も使ってた時計が壊れた。
星空と三日月を映した
夜の海の絵が描いてあるオシャレな時計。
最初は5分ズレただけだったけど、
20分、50分、と、
だんだん時計の意味が無くなってきた。
それでもこの時計を使い続けるのは、
この絵が好きだから。
ほぼ絵画みたいなもんだな。
でも、
そこらの絵とは何か違うんだ。
絵を見てると、
真夜中、突然海に行きたくなる。
海は家から近いけど、
田舎だから街灯が少なく
夜道は暗くて怖い。
でも海に行きたくてしょうがないんだ。
さっさと寝たらいいんじゃない?って思うでしょ?
私よふかし大好きで、
海に行きたくなる前まで、
ずっと朝方まで起きてたから
そんな簡単に寝れないの。
今日ついに
抑えきれなくなっちゃって、
でも怖くて、
時計を持って海へ行った。
思わず声が出ちゃうくらい
綺麗だった。
時計の絵と同じ、
星空と三日月を映した海が、
時計でしか見れないと思っていた景色が、
目の前に広がってた。
現実とはかけ離れた、
非現実。
今この瞬間の気持ちを
ずっと忘れないでいたいと思った。
こんな真夜中には
この言葉が1番だと思って、
私が大好きな漫画の一言を
口にしてみた。
"Good Midnight!"
少し恥ずかしくなって、
塩の混じった空気を
肺いっぱいに吸った。
ある人から貰った手紙。
別に、そんなに仲が良かった訳じゃないけど、
文通を始めた。
今どきスマホがあるのに、
なんで文通しようと思ったんだろうと、
お互いよく分からないまま、
3年ほど経った。
今日の手紙はなんだかおかしい。
いつもより文章が短いし、
書きなぐりのようにも見える
ぐちゃぐちゃな字。
どういう訳か、
なんとなく裏返してみた。
「しにたい。」
と、
一言だけ書かれていた。
びっくりして、
すぐその人に手紙を書こうと思った。
お願い生きて。なんて無責任な言葉は、
絶対に使いたくなかった。
できるだけ
いつも通りの文章で、
できるだけ
暖かい言葉を使って、
最後に私が大好きな漫画の
ある一言を書いた。
"Good Midnight!"
なんだか少し洒落てしまった。
でも今のあの人には
丁度いい。
生きてる間に届けばいいなと
少し曇った空を見上げた。