いくら太郎

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9/4/2025, 4:24:00 PM

言い出せなかった「」

何かを失わなきゃ何も得られない世界だよ。
お姉ちゃんはいつもそう言って私を説得する。
「お姉ちゃんと同じことをしたい。」
「お姉ちゃんと同じようにしたい。」
「お姉ちゃんのことを知りたい。」
だけどお姉ちゃんはいつも同じ事を言うだけ。
「私もうこんな年齢だよ。」
「私もう子供じゃないよ。」
「私もう大丈夫だよ。」
私もう。
私が知ってるのは、私がお姉ちゃんの妹は私ということだけだ。それだけで十分だ。

9/1/2025, 4:21:17 PM

夏の忘れ物を探しに

青すぎる空に気持ちが引っ張られる、そんな日。
嫌いな日焼け止めは見て見ぬフリをする。
いつもは二の腕を気にして1枚重ねるキャミソールワンピースも今日はそれだけで。
あんまり焼けませんように、なんて思いながら玄関をゆっくり開けた。
最近お気に入りの洋楽なんか聴いちゃいながら、今日のメイク上手くいったなぁって自然と笑顔になってしまう。
オシャレは乙女の武装、よく言ったものね。
ずっと食べたかった人気店のかき氷を食べるために行列に並ぶのさえ楽しい。
ひとつひとつ、日々こぼれ落ちていく私のカケラを、またこうやって拾い集める。
足りなくなったらそっと足して、溢れてきたら流れるままに。
そういえば何かを忘れてる気がするんだけど、
まぁいっか。
だってね、今日の私は、この夏で1番可愛いんだから。

8/29/2025, 3:04:30 PM

心の中の風景は

真っ黒だよ真っ黒。風景もくそもねぇ。怒りなのか悲しみなのかもはや自分でも分かんねぇし。結局誰も何も頼れねぇ。思い出せないんだよ。消せないんだよ。真っ黒が。ずっとずっと真っ黒のまま。誰かどうにかしてくれよ。ただ真っ黒じゃなくなりたいだけなのに。何も見えなくなったこの心にほんの少し、風景を灯してほしいだけなのに。

8/15/2025, 5:06:07 PM

!マークじゃ足りない感情

全身が燃えるように熱くなる。
沢山の目線に晒されて、恥ずかしくて、怖くて、逃げ出したいって足が震え出す。
それなのに実際は舞台に根が張ったように1歩も動けなくて、自分が指先を微かに動かせば、全ての視線がそこに集まるような気さえする。
声も掠れて、なかなか喉を通り抜けなくて、頭が真っ白になると、ようやく私の五感は全てを遠ざける。
ただ1つの音が遠くから聞こえてくれば、あとはこの世の全ての感嘆をかき集めて溺れるだけなのだ。

8/15/2025, 7:58:07 AM

君が見た景色。

そんなキレイなもんじゃないと思うの。
何かを見つめるまつ毛が一瞬揺れる。
ただの音と光なのよ。
わざとバカにしたように言うけれどその横顔は嬉しそうだった。
どうしてこんなに忘れたくないのかなぁ。
そういう割にはまだその横顔は嬉しそうに見えた。
君の代わりに僕が覚えておくよ。
素早く2回まつ毛が閉じて、頬が少し張る。
うそつき。
緩んだ口元から笑い声がこぼれる。
キレイだよ。
僕はこの景色を生涯忘れたくないなと思った。

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