上手くいかなくたっていい
お前はまだ若いんだ、何度だってやり直せるさ
そう、貴方は言いました
それを聞いてあの頃の自分は、何を年寄り臭いことを言っているのかと鼻で笑って聞いていました
若いだの若くないだのなんて関係ない、自分の能力があれば上手くいかないことなんてそうそうあるはずがないと、そう、高を括っていたのです
ですが、ああ、今になって、思うのです
上手くいかないことが、こんなにも苦しいことなのだと
あの頃の自分は、いいえ、今の今まで、こんな歳になっても、大した挫折というものを覚えることなく、悠々と上り詰めてきてしまった自分には、ここにきて、こんなにも苦く悲しいことがあるのだと、初めて知ったのです
小さい頃から苦労はしていました
死にそうになったことだってありました
負けたこともあるし、与えられた役割をこなせなかったことだってありました
それでも
こんなに、つらい思いをしたことは、今の今までなかったのです
ああ、貴方はきっと自分より何倍も何十倍もつらい思いをしてきたのだろうに、どうしてこれに耐えることができたのですか
最後の最後、貴方が反旗を翻す原因になったのが、積み重なった喪失ではなく、我々からの裏切りともとれる決断であったことが、こんなに、こんなにも、苦しいのです
それを悔やんだりはしませんが、それでも、もしも、もしもあのとき、あの決断を、覆せなかったとしても、せめて、やめてくれと、打診することができていたなら
貴方は、我々を、自分を、見限ることはなかったのでしょうか
なんて、愚にもつかないもしもを考えてしまうのです
ああ、ああ、貴方を止めることができる唯一の存在が自分であったことが、せめてもの救いだなんて、そんな、悲しいこと、思いたくなかった
貴方を、失いたくなかった
ごめんなさい、さようなら
きっとこの先、こんなにも上手くいかないことを嘆くなんて、ないのでしょうね
だからこそ、せめてこのつらさと苦しさと悲しみを、貴方への手向けにさせてください
もう二度と涙は流さないから
最初から決まってた
君がその信念の赴くままに行動することも、君がその煮え滾る正義に背くことができないことも、君が長年の付き合いの友であってすら手にかけることをやむなしと判ずることも、全て、全てをわかっていた
だから
「後悔なんて、しないでね」
「……ああ」
ひとつ笑って、さようなら
君の行く末を見守れないこと、それだけが心残りだけれど、それでも、この結末に後悔はないから
君もこの決断と、君の人生の結末に、後悔だけはしないで欲しい
なんて
「……狡い男だな、お前は」
君の流した涙を、知らぬフリして目を閉じた