老いぼれたじいさんが、居酒屋で楽しそうに叫んでた。
「あー、今日も生き延びたなあ、、
変わり映えしない1日だったけど、なんとか生き延びた
ほんと特別な夜だよ
こんなにもビールが美味いんだもん」
楽しそうにしつつも、どこか物悲しそうな雰囲気もあった。
きっと、想像を超えた当たり前の人生を歩んできたのだろう、、、
じいさんは居酒屋で、誰よりも美味そうにビールを飲んでた。
それは、山頂の味に違いない。
さみーな、おい。
身包み剥がそうとしてるだろ、この風
彼は外に出た瞬間、そう叫んだ。
実は彼、さっき告白して、見事に振られたばかりだ。
あー、でも、剥いでくれたらそれでいいか。
荷物が減れば、身軽になれるし。
そもそも、何も持ってない方が強いんじゃね?
おれ、ミニマリストになるわ!
そう言って、ゲラゲラ笑った。
木枯らし。彼の理想もプライドも、ぜんぶ持っていったらしい、、、
けれどその笑顔は、春を先取りしたようにあたたかくて、どこか、冬を越える準備をしているようでもあった。
三日月は欠けてなんかいないわよ。
地球が隠してるだけ。
なんで?
さあ、なんででしょうね。
、、、
月だって、あまり光ると疲れちゃうのよ。
ほら、蛍だってそうじゃない?
影がないと、休めないのよ。
あなたは月の影に何を映しているの?
彼女はそう言って、煙草の煙を吐いた。
唇から零れた煙は、月へと上っていった。
冬晴れといえば、絶対に吹雪だ。
広大な青空と光り輝く雪を浮かべたくなる。
でも絶対に、冬晴れは吹雪だ。
だって、冬が生き生きしてる感じがするじゃない?
晴れた日の冬は、冬の外にいる気がする。
吹雪は、冬の中にいる。
晴れも吹雪も天気だけど、つまりは気の持ちようだよ。
晴々とした吹雪を感じよう。
そこに天気がある。
偶然だった。
出張先のホテルで、元カノと再会した。
実に、四年ぶりのことだった。
お互い、挨拶だけで済ませるつもりだった。
けれど、顔を合わせて話しているうちに、懐かしさがこみ上げてきて、気づけば近くの居酒屋に入っていた。
別れ方は、悪いものではなかった。
それでもふと、「なぜ、別れたんだっけ」と思ってしまうほどに、彼女は魅力的に見えた。
当時の僕には、それが見えていなかったのだろうか。
「惜しい気もするけど、別れたことに後悔はないよ」
二杯目のビールを飲みながら、花火大会のあとみたいな顔で、彼女はそう言った。
その晩、夢を見た。
彼女が、僕のホテルの部屋にやってきた。
驚いてドアを開けたが、彼女は何も話さなかった。
けれど、その顔は、言葉以上に雄弁だった。
僕は言葉にならない感覚で、彼女の気持ちを理解した。
彼女は、目を閉じていた。
僕は、なぜか部屋に置かれていた口紅を手に取った。
それは、彼女が昔よく使っていた色だった。
僕は、そっと彼女の唇に紅を塗った。
そして、彼女は何も言わず、部屋を出ていった。
記憶に、紅色だけを残して。