オアシス
永遠にオアシスを求め続ける。
ある時は砂漠。
湿気った土は無い。
サラサラに乾いた砂が緩やかに積もり
変わらないその光景が
オアシスを求める欲求を増長する。
ある時は熱帯雨林。
あらゆる生命の楽園。
植物に断られることはない。
訪れた者は、ここが
オアシスかと皆が思うだろう。
しかし、あまりにも生命が多く
返ってそれぞれに危険が伴う。
互いの欲求が武器になる。
ある時は街。
そこには高知能の有機生命体が集まる。
平穏でも刺激でもなんでも揃う。
しかし、そこでは
弱者は欲求を抱いてはいけない。
強者に淘汰されるから。
弱者から純粋な欲求はなくなり
濁り澱んだ欲求のみが残り
弱者は強者となる。
砂漠。
乾いた砂が続く。
遠くの蜃気楼がまるで水のようで
届かない幸せが待ち遠しい。
たどり着いたオアシスが
濁りのないものであることを期待するが
これらの欲を抱えた自分が
オアシスにたどり着いてしまったなら
そこはもう自分を含む誰のオアシスでも
なくなってしまうのではないかと
少しだけ頭によぎり
そんな戯言はほんの少しで欲が消した。
涙の跡
激動。
ムチン層だけでは
雑味な涙を瞳に留まらせることはできない。
これまで溜めてきた流動体は
グラスに留まることすら耐えられなかった。
誰の許可も得ず
このグラスから出ることも留まることも
自らの権利だと主張する
グラスは抑圧とし
私の理性という秩序からの解放という
理念を掲げたものたち。
しかし、その反面にやつらは
私の心の解放者でもある。
やつらの横暴さに為すすべなく
グラスは傾き
やつらは頬伝う涙として
涙跡という開拓の道を残し
規律重んじるグラスへと
戻ることしかできなかった。
やつらが道から乾いても
不必要な存在感を残すだけ。
解放者たちは私の心に出口をつくるだけで
帰っては来ず、それを塞ぐこともせず。
事の末には憔悴した秩序が
やつらが散らかした道を
名の通りにするだけである。
半袖
臆病者は半袖を着れない。
計画の露見。
降り積もる罪。
己のコンプレックス。
隠したい過去。
外部からの攻撃。
自分を守るための長い袖。
抱え過ぎた慎重さから
肌を晒すことは己を晒すこと
と、意識の最も深い場所で
無意識に認知している。
もし、臆病者が半袖を着ているならば
それは、臆病者にとって大きな成長。
もしくは、全てを諦めた末路かもしれない。
もしも過去へと行けるなら
かの有名な博士は発明した。
夢の、タイムマシーンを。
『最新の情報です。
過去と未来を行き来できる夢のような機械
タイムマシーンの搭乗者増加に伴い
人口変動が問題視されています。
調査によると、主に情勢の違いや
発達した技術を用いての
犯罪行為などの理由から
現代における人口が減少しています。
これによりタイムマシーンが違法物となり
警察の特別隊がタイムマシーンの押収や
規制をかけています。』
博士、タイムマシーンは違法なんですって。
今すぐ作るのやめてください。
逮捕されちゃいますよ!
これが最後だ。
ときに、助手。
君はタイムマシーンに乗りたいと思うか。
思いませんよ!
今のニュース聞いてましたよね。
違法なんですよ。い、ほ、う。
ニュースの話ではなくて、君の欲求の話だ。
過去や未来に行って
何かをしたいと思うか。
え、まあ、そうですね。
小さい頃に戻れたらいいなとは
考えたことはあります。
なぜだ。
それは、昔の過ちとか正したいですし。
思い出補正とかあるじゃないですか。
そうだろうな。
私はそんな欲求を叶えるため
タイムマシーンを作っていた。
でも、ダメなんですよね。
思い出が過去に人を閉じ込めたりする。
今はそんな話ちらほら聞きます。
正しくは
思い出が閉じ込めてるのではなく
思い出に人が閉じこもっているに過ぎない。
なぜそんな話を?
この最後のタイムマシーンだが
今まで作っていたものとは違う。
だが、これは依頼されたものではない。
とっくに規制され
卸すところもないのだからな。
じゃあなぜ作るんですか。
リスクを冒してまで。
リスクを冒してまで
過去に行って過ちを正さねばいけないからだ。
それって。
今まで作ったものとの相違点だが
至ってシンプルだ。
これは過去に戻るだけの機能しか
備わっていない。
いわゆる一方通行だ。
博士、いけません。
このままでは私は捕まるだろう。
罪を背負い、償うのもやぶさかではない。
しかし、それでは釣り合いが取れないのだ。
今の国を壊した責任が私にはある。
行かないでください。
一緒に罪を背負いましょう。
君は最初からなんの関係もない。
無かったことにするんだ。
君は一般的な欲求を持った正常な人間だ。
私は欲求を過度に実現させてしまった異常者に
成り果ててしまったんだ。
いま君に、もしも過去へと行けるなら
どうしたいかと聞かれるならば
今の私は
過去の私とタイムマシーンを消したい。
そう答える。
では、私も行きます。
君のその優しさは買おう。
だがこれは一人乗りだ。
では。
またいつか
わたしたち生命体にとっては
まだ先のこと
でも宇宙全体では
もうすぐのこと
酸素が豊富で
光が差し
緑が生い茂り
生命に恵まれた
太陽系第3惑星は滅ぶ
我々生命の
限界を知ることのない欲求が
近い将来、限界を知ることになる
温暖化が進み
異常気象が多く観測された
生命の未来のために
勇気と博識ある宇宙探査員たちの尽力のもと
生活における条件を満たした
ハビタブルゾーン発見することに成功した
奇跡に近く
人類のロマンが
叶えられただろう
友人たちもできることなら
そちらに移住したいそうだ
わたしはしない
インフラの整わない星で
本当にうまくいけるのか
この星の二の舞になるのではないのか
かつての国籍の入り混じる社会に
新しい法がはたして適応できるのか
そもそもどこのどのような法律を
適応させるつもりなのか
暗い終わりが迫るというのに
希望の選択肢にも暗さしか見出せない
またいつかの救済を
わたしはこの地で待つことにする