『どこへ行こう』
明日急に休みになった。
唐突に訪れた休日を折角だから有意義に使いたい。
さて...何をしようか。
一日中ゲーム...はいつも通りで味気ない。
スマホで近くに何があったかを調べるほど
遊びで外出することはない。
近くにはゲーセン、カフェ、ショッピング...
思った以上に色々あった。
ここに引っ越してきてから数年、
全然開拓していなかったんだなと思い知らされる。
たまには、行ってみようか。
とりあえず調べてみて面白そうな場所をまとめた。
年甲斐もなくベッドでワクワクしてしまう。
明日は良い一日になるといいな。
語り部シルヴァ
『big love!』
「はい!どーぞ!」
むふーと彼女は誇らしげに両手を広げて構えている。
尻尾があれば絶対に振ってそうだ。
ふらふらと吸い込まれるように彼女の前で
膝から崩れ落ちて全体重を預ける。
わっと驚いた声がしたがすぐに頭を撫でられる。
髪の毛が彼女の手によってわしゃわしゃと音を立てる。
雑な撫で方だが、そこが妙に安心する。
「ふふ、お疲れ様。」
柔らかい肌に優しい手、甘い声が疲れていた体に染みる。
同じ石鹸を使ってるのに彼女特有のいい匂いがする。
「...ありがとう。」
「いーよ。そんな君が大好きだからさ。」
体を起こし彼女を抱きしめる。
「俺も、大好き。」
彼女から微笑んでありがとうと強く抱き締めてくれた。
語り部シルヴァ
『ささやき』
「ほら、我慢しないでさ...」
「い...嫌。折角ここまで我慢できたのに...」
優しさの裏にある誘いが私の決心を揺るがす。
「頑張る君も素敵だけど、たまには許してあげなよ?」
この人の声はどうしてこうも自分を許したくなるのか...
いや、ダメだ。ここで許せば自分が頑張ってきた意味が...
「僕は好きなことを好きなだけする君も見てみたいなあ」
あー...ダメだ。ずっと私が折れるまで続ける気だ。
...明日からまた頑張ろう。
諦めてポテチの袋に手を伸ばす。
「じゃあ、コーラ持ってくるね〜」
満足気な声で映画鑑賞の準備が始まる。
ダイエット...明日からちゃんとやります。
そんな反省の念を込めてポテチの袋を開ける。
好きなコンソメの香りが反省の心を吹き飛ばした気がした。
語り部シルヴァ
『星明かり』
今日の夜はいつもの静けさが抑えられている気がする。
暖かくなっていくにつれて夜も少しずつ元気さを取り戻していく。
もう風呂上がりも暑くなって、
薄着で外に出ると風が心地よく感じる季節になった。
この田舎は夜になると本当に真っ暗だ。
視界は暗く、家の明かりから少しでも離れると
暗闇に飲み込まれる。
あとは獣の声と草が風で擦れる音。
暖かくなってきてから賑やかになってきた。
何も無くて暇だが、月が生えない夜にだけ
不思議なことが起こる。
家から離れて少し歩く。
右も左もわからなくなる場所まで歩くと、星々が落ちてくる。
その点々と広がる星が地上を照らす。
奇妙な出来事だが、今では優しいこの明かりが
安心感と心地良さをくれる。
春の夜風に吹かれて星は静かに揺れる。
あとは雲のベッドさえあれば最高だな。
そう思いつつ星を撫でながら家に帰ることにした。
星も帰るのか静かに真っ黒な空を目指して浮かび上がった。
語り部シルヴァ
『影絵』
光を当てる。
両手をパーにすれば蟹。
一件不規則なオブジェクトも森の中に立つ鹿に...
光という対象的なものの力を借りて影絵は成り立つ。
改めて影絵とは不思議なものだ。
僕は影絵のアーティストとして活動している一般人だ。
世間は趣があるとか考察のしがいがあるとコメントが来る。
そんなもの僕の作品には無い。
ただ自分の中にある黒い何かをそのまま
作品として出しているだけ。
もし考察してくれたコメントが納得するようなものだったら
僕のこの黒い何かの答えは出るんだろうか。
僕の心にある影も光を当てれば何か見えるのか...
そう思いふと閃いて病院へ行く。
心にある黒い何か...
医師に尋ねて検査をしたあと、医師から一言。
「いやー、綺麗なですね。
こんなに綺麗なレントゲンは見たことないですよ。」
語り部シルヴァ