本気の恋
「それじゃあ今回はここまで!」
「また見に来てね〜。チャンネル登録も忘れずに〜」
笑顔で手を振りながら〆の挨拶をする。
カメラを止めた瞬間口の表情筋がすっと降りるのを感じた。
私たちはカップル配信者として活動している。
最初は些細なきっかけだった。
大学の気になっていた先輩に恋をしていたのがバレて
それを利用する形で動画配信者の誘いを受けた。
それで試しに動画を撮ってみた結果人気が急上昇。
今でも動画で紹介した化粧品がSNSでバズることがある。
「はい、今日もありがとう。」
そう言いながらコーヒーと砂糖とミルクのセットを
先輩が持ってきてくれた。
「また予定立てて次の企画の準備しとくね。」
「ありがとうございます。またよろしくお願いします。」
砂糖とミルクを混ぜて1口飲む。
自分の撮った動画を見返す。
画面越しの私たちはとても甘く、胸焼けしそうな笑顔だ。
偽りの私たちは本当の恋人のようで、
本気になってるのは私だけという現実がコーヒーのほろ苦さを通して痛感させる。
ミルクと砂糖を混ぜたはずなのに...
語り部シルヴァ
カレンダー
私は日めくりカレンダーが好きだ。
寝る前にその日を終えた証としてカレンダーを破る。
破りきったその時の気分によって破れ方が変わる。
イライラしてたなら荒いし悲しい時は弱々しい...
破れ跡を見ていつもそんなことを思っている。
今日は気になってる先輩と会話が弾んだおかげか綺麗にカレンダーを破れた。
破ったカレンダーは折り紙の容量でゴミ箱にしたり小さく切ってメモ用紙にしたりする。
破ったあとでも使い道は沢山あるんだ。
明日はどんな一日になるんだろうか。
どんな破れ方をするのか楽しみだ。
ワクワクしながらベッドへと向かう。
明日もいい日になるように...
語り部シルヴァ
喪失感
外に出るとえらく静かに感じる。
いや店内がうるさすぎただけか...
そう思いながら片手をポケットの突っ込んで陽の光を浴びる。
タバコを吸いながら空を見上げる。
秋の空と言うんだろうか。青空は広く雲は静かに足早に流れていく。
そよそよと吹く風は秋らしく乾いていてそれで涼しい。
なんとも気分がいいのだろう。
体が軽くなりそうだ。
そう思いながらタバコを1本吸い終えて歩き出す。
たった今、所持金を全部スった。
銀行からおろさないと。
全部失ったはずだが、頭の中では
次は当たるだろうと謎の自信に満ち溢れていた。
語り部シルヴァ
世界に一つだけ
弟が可愛い。
女の子のようなビジュアル。
少し高めの声。
袖がぶかぶかになってしまうほど小さな体躯。
本人は不満そうだが、私は可愛いからいいじゃんと頭を撫でる。
決してからかってるわけじゃない。
愛おしい。
ただそれだけなんだ。
お姉ちゃんと私のことを下から見上げるように見るその顔は男だと忘れてしまうほどに可愛い。
ブラコン?なんとでも言えばいい。
私は弟を愛でているだけ。
世界に一つだけの可愛い弟だ。
その姉であることに誇りを持てるほど、弟は最高なんだ。
語り部シルヴァ
踊るように
週末の夜の都会はみんな楽しそうだ。
土日が休みの人が多いからだろう。
世間では華やかな金曜日を華金と呼ぶことがあるらしい。
まあ、僕も浮かれてるひとりなのかもしれない。
明日が休みだから寝る時間すら勿体ないからと
夜の都会に駆り出したところだ。
ハメを少し外す学生、ホストやキャバクラの勧誘、
そしてお酒で出来上がった社会人。
みんな楽しさの基準は違うだろうけど、いい顔をしている。
みんな心踊るように金曜の夜を飾るのだろう。
僕も沢山楽しもう。
とりあえずいつものゲーセンに足を運んだ。
語り部シルヴァ