一尾(いっぽ)in 仮住まい

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5/8/2025, 11:48:17 PM

→短編・届かない……

ど、どうした? 
そんなに塞ぎ込んで。君の呟き、聴こえたよ。
よかったら話を聞こうか?
何に届かないの?
想い人に君の心を打ち明けた?
それとも、夢にあと一歩実力が及ばない?
あ、送った手紙の返信待ち、とか?

待ち時間って、辛いよね。
投げたボールの返球は必ずあると、そう信じてるんだね。もしくは返信など期待しないのだと、自分との折り合いをつけようとしてるのかな?
焦燥感や期待や不安に囚われてるんだね。

でもね、
君はボールを投げた。何かにそれを委ねた。
届くか届かないかは、もう君から離れた問題だ。
縁があるなら、何かになって君に戻ってくるよ。

そうそう、全然関係ないけどさ、相互作用を意味するとき、インタラクティブって表現することが増えたよね。どうにも慣れなくて、何度も辞書を引いたよ。
ようやく僕の脳に届いたみたい。時間が必要だったんだね。

どう? こんな与太話だけれど、少しは楽になった?
僕の話、君の心に届いたかな?


テーマ; 届かない……
  

5/8/2025, 9:11:09 AM

→レースを編む

 編み上げたばかりのレースのテーブルクロスに水を通す。久しぶりにかなりの大作だ。
 ところで、水を吸ったレースはとても重い。よっこらしょと、軽く脱水。
 プロの人が見たら、あまりの雑な扱いに開いた口がふさがらない知れないが、気にしない。日常使用の素人作品なのだから。
 そこそこ水の切れたテーブルクロスをベランダに干す。
 天気の良い日。ベランダのガーデンチェアに腰掛ける。
 風に揺れるレースが、木漏れ日のような繊細な影を私に降り注いでくれた。


テーマ; 木漏れ日

5/7/2025, 2:18:37 AM

→あいのうた


ひねくれものの
こころにとどく
あいのうたを
だれかおしえて

それをきくと
こころがぽかぽかしたり
せつなくなったりするらしいね

いいね
そういうの


   捻じ曲げる甲斐がありそうだね


テーマ; ラブソング

5/6/2025, 1:09:17 AM

→1年に1度

彼女から手紙がやってくる。1年に1度。
手紙を開くと、大学時代から変わらない彼女の文字。
「お誕生日おめでとう」
そして添えられる、彼女らしい地に足のついた短文。

今の御時世に、私たちはお互いの携帯番号もメールアドレスも知らない。別にいらない。
私たちには手紙がある。
1年1度の手紙がある。

テーマ; 手紙を開くと

5/5/2025, 2:53:36 AM

→今はまだ……

 今はまだ、デバイス越しにしかインターネットに介入できないが、遠い未来にはその電子世界と脳が直接繋がって、まるで現実世界のように自由に行き交うことができるかもしれない。
 情報網という往来を、仮の体で探索する。現実世界のように、しかし誰とは知らない人と視線を交わし、もしくは瞳をすれ違わせる、そんな出会いと別れがあるかもしれない。
 そんな物語を想像しながら、私は現実世界の電車に揺られている。
 何となしに、私は手元のスマートフォンから視線を上げた。前に座っている人と目が合った。
 お互いに何事もなかったかのように瞳をすれ違わせ、自分の手元に目を落とす。
 小さな機械の画面を見る。
 今はまだ、そんな世界。 

テーマ; すれ違う瞳

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