6/11/2024, 11:33:23 AM
この街にはなんでもあるけど、もうなんにもないの。
赤く染ったひこうき雲に向かって、
君は咳き込みながら副流煙を飛ばす。
一本しかないんだけど、半分あげる。
錆び付いたハイスツールに腰かける僕に向かって、
君は人差し指と中指を近付ける。
吸ってやってよ、アイツが好きだった味もさ。
差し出された錆ひとつない灰皿には、
剥がされ損ねた値札シールが居心地悪そうにしていた。
ここを去る日に、吸うって決めてたの。
君は晴れやかな顔をして、
僕が飛ばした副流煙を胸の奥まで吸い込んだ。
この街にはなんにもないけど、君がいるのに。
煙と共に出かかった言葉は、
アイツの残骸と一緒に灰皿の上に押し潰す。
いつの間にかひこうき雲は消えていた。
6/9/2024, 12:06:14 PM
君がくれる温もりは、
いつもやわらかく私の瞼を刺す。
気が付くといなくなっていて、
また、胸いっぱいに吸い込みたくなるような、
せせらぎのような空気と共に訪れる。
嗚呼、この光を両手いっぱいにあつめることが出来たなら。
苦しいとき、いつでも取り出すことが出来たなら。
君がくれた温もりを、
いつかどこかで君に渡すことが出来るのに。
6/8/2024, 2:59:26 PM
間違いだとは思わない。
いつの間にか、ここに立っていたし、
いつの間にか、ここまで歩いてきた。
裸足だった時もあったし、穴の空いた靴下だった時もあった。
いつの間にか、靴を履くようになって、
いつの間にか、どこかを目指していた。
標識の通りには歩いて来なかったけれど、
みんなとは逆の方向に行ってみたりもしたけれど、
間違いだとは思わない。
いつの間にか、靴はすり減って、
いつの間にか、岐路は通り過ぎていた。
正解だとも思わない。
ただ、靴が泥だらけになっただけだ。