1つだけ
「この屋敷かな?」
目の前に広がるのは、大きな洋風のお屋敷。
知り合いから、町の奥の屋敷に1つだけ何でも願いを叶えてくれる魔法使いがいると聞いた
呼び鈴を鳴らし、しばらく待つ。数分もたたぬうちに黒いローブを纏った人物が現れた
「あなたがお客様かい?」
「そうです」
「まあここで話すのも冷え込むでしょう?中におあがりなさい」
彼女に続いて屋敷に入っていった。だが、私は知らない。願い事が理由で最悪な結末になるなんて…
「それで?あなたの願いは?」
不敵な笑みで尋ねる魔法使い。
「1つ確認なのですが、何でも1つだけ叶えてくださるのでしょうか?」
「もちろん。私にできないことはない」
そう言われ、私は決意して伝えた
「この世界を、争いや憎しみのない世界にしてください」
振り返れば、世界は負の感情で溢れていた。リアルでも、ネットの中でも。そんな世界を変えたかったのだ
「よかろう。お前の願いを受け止めた」
私は安堵した。だが、それはすぐに終わった
耐えがたい激痛が私を襲ったのだ
「待ってください、何で私が…ぁ…」
「…っ、争いをなくすには人間を滅亡させる。こうするしかないのだよ」
物憂げな目で何かをつぶやく魔法使い。
なんて言っているのかはわからない
最期に私の意識は途絶えた
ただ1つだけの願いの代償は、重すぎた。
夢が醒める前に
とあるアイドルが解散する夢を見た。
でもその夢は、解散だけで終わらない悪夢だった。
存在自体最初からいなかった扱いをされたのだ。
青い鳥のSNSや検索サイトを調べても見つからなかった。
私の記憶だけ残して、ぽっかり消えてしまった
夢が醒める前に、もっと大好きと伝えていればよかった
ずっと隣で
ずっと隣で存在していることが、本当に幸せだったんだ
幸せに気づくのは、失ってからだった。
私も、周りも、SNSも闇に包まれた
もっと知りたい
かつて、世界にはアイドルと言う存在がいた。
でも、この質問には誰も答えられなかった。
「そのアイドルは、どんな人だった?」
私も、かつてとあるアイドルグループを推していた。
だが、世界中からアイドルという存在自体なくなった今
歌も思い出も笑顔も彼らのことが全部わからなくなった
心の1番深いところに、大きな穴が空いた感覚があった
ファン同士の争いや、アイドルへの愛憎がなくなりSNSは平和になったように見えた。
だが、本当のところファンたちはどうなったのだろう。
形はどうあれ根底にはアイドルたちへの想いがあったはずだ。
推しがいないSNS世界は枯れてしまったように見えた。
もっと知りたい、知りたかった。愛したかった。
だから、失いたくなかったのに。
嘆きは誰にも届かなかった
愛と平和
春風吹く楽園で隣人が微笑む
私も微笑む。平和で幸せな世界は傍にある。