奇跡をもう一度
奇跡がもう一度起こせるのなら、彼に会いたい。
夜空の下で笑い合った記憶を胸に、彼のいない世界で今日も生きていく。
たそがれ
車窓から見える夕方と夜の狭間。
街には少しずつ明かりが灯り始めた。
高層マンション、一軒家、アパート…
明かりの数だけ人生があるんだな。
そう思うだけで世界が少し愛おしくなってくる。
最寄り駅に着いて美しい空を見上げて歩き始める。
「おかえり」
横を見ると暗がりから父の顔が見えた。
同じ電車だったのだろう。
私も、おかえりと返した。
今日の出来事を話しながら夜に浸った道を進みだした。
こうして1日が終わっていく。
あの明かりへ私も帰っていく。
きっと明日も
テレビに映る大好きな彼ら。
学生時代からずっと応援していた。
振り返ればいつだって、彼らが心の中にいた。
コンサート翌日のニュースで、お揃いの色の衣装を着て楽しげに踊る姿が映っている。私はちょうどこの日に観に行っていた。
推したちは過去も今も、幸せをたくさんくれた。
私たちファンも、たくさんの声援を送った。
きっと明日も、明後日も、その先も私は応援し続けるのだろうな。
コンサートの思い出に心をほくほくさせながら、私は朝食のカフェラテを啜った。
静寂に包まれた部屋
家族におやすみと伝え、自室に向かった。
部屋のドアを開き、明日の荷物を準備した後はそのままベッドに倒れ込んだ。
静かな部屋に柔らかな毛布は、騒がしい1日に揉まれた心身を癒してくれる。
今この時は、穏やかに過ごしなさいと伝えてくれるようだ。
静けさに身を任せ、私は夢の世界へと旅立った
別れ際に
桜が咲きそうな3月中旬。
私と親友は、卒業式から家路に向かう途中だった。
「私さこの3年間たくさん友達はできたけど、親友と言われて最初に出てくるのは貴方だったのよ」
これまでの日々を愛おしむような眼差しでで伝えてきた。
そうだね、と相槌を打った。
歩きながら、彼女と過ごした3年間が走馬灯のように駆け巡る。
初めて会った入学式の日、彼女のクラスに突撃した昼休み、夜空を見上げて語り合った修学旅行…
振り返ればいつだって一緒だった。
思い出話に花を咲かせながら駅に着く。
ああ、高校生として会うのはこれが最後なんだなと改めて思う。
でも、私たちの関係はこれからも続いていくだろう。
電車に乗る際、彼女は微笑んだ。
「ありがとう、またね。これからもよろしくね」
「こちらこそ、ありがとう」