ー三日月は夜中には姿を見ることはできない。
夕方か明け方にしか
その姿を目に映すことが出来ないのだ。ー
彼は三日月みたいな人だ。
彼の外見,というか雰囲気がまずとても儚く,繊細だ。
静かに、何かを見つめるように美しく微笑む。
独特の、彼特有の不思議なオーラがある。
まるで『月』のような。
それでいていつも会う時間が
大抵明け方4時から6時までか夕方16時から18時なのだから、そう考えるようになった。
満月でも半月でもない、『三日月』なのだ。彼は。
満月とも半月とも違う、-儚さ-がある。
「どうして明け方と夕方以外は貴方に会えないの?」
一度だけ、聞いたことがある。
なぜいつも小さな湖の前で会おうと言ってくるのか、
名前は何なのか、何者なのか、
なんて聞きたいことはいっぱいあった。
でも聞けなかった。
聞くな、と彼の目が,雰囲気がそう言っていた。
だから聞かなかったのだが、
どうしても気になったため勇気を振り絞って聞いた。
“さぁ。なんでだろう。でも僕は君を愛している。“
なんて言われてしまったから何も言えなかった。
何も知らなくても、ふらっと時々しか会えなくても、
私は彼を愛していた。
彼に会えなくなって12年が経った。
会えなくなった頃から
宇宙で人間の知能では分析できない出来事が起こり始め、月と太陽が宇宙から消えた。
月が消える寸前、月の形は三日月だった、らしい。
月と太陽が消えたら生物は消滅すると言われていたが、細胞の変化やらなんやらで
今なお地球上では生物達が生きている。
私は会えなくなった頃からずっと、
彼と会っていた湖の前で生きている。
会えなくなっても、
『ああ、やっぱりな』としか思わなかった。
彼がいつか私の前から姿を消すことはわかっていたから、探し回るなんて事はしなかった。
ただすんなりと、彼に会えないという事実を受け入れられた。
彼といる時はいつも三日月を見ていた。
それが癖付いてしまったのか、月なんて見えやしないのに夕方と明け方は毎日空を見上げてしまう。
今日も、空を見ていた。
"太陽ちゃん“
、聞き間違えるわけが無かった。
彼だ。と思った。彼が私の名を呼んだ、と。
瞬時に分かった。
目を細めながら振り向けば、彼が、彼がいた。
あの三日月のような静かで美しい笑みを浮かべて、
『もう1人じゃないよ』
と言った。
私の最期はその言葉を聞いて迎えた。
#三日月