氷魚

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5/13/2025, 1:36:46 AM

 『ただ君だけ』

 そんな甘い言葉に踊らされてこんな所まで来てしまった。
 「いよいよですね」
 艶やかな黒髪を揺らして薄く笑う相棒に、始まりの日からもう何万回目かのため息を吐く。
 「えぇ〜……本当にやるの?」
 正直気は進まない。体に纏わりつくような生ぬるい空気の中に佇む魔王城。最終決戦を前にして俺はまだ迷っていた。

 『せかいをすくえるのは、ただ君だけ……ですよ?』

 俺よりずっと小さいくせに俺よりうんと年上の、魔法が使える相棒に撫でられた感触を思い出す。せかいをすくうとかは興味無いし、どうでも良いんだけど。お前が嬉しいなら……やってやらんこともない。
 「これが終わったら寝るからね?」
 「はいはい。存分にどうぞ?」
 幼子に言い聞かすような相棒の声色に、これが終わったらお前も一緒に寝床に連れ込んでやると心に決めて。

 「さっさと消えて?」
 眼下に見える勇者一行に最初からクライマックスの暗黒魔法を撃ち込んだ。
 「さすが魔王様です」
 爆音と抉れた地面、跡形もない勇者一行を見下ろして満足げな相棒の手を取り室内に戻る。
 「やっぱり世界を巣食えるのは君だけですね……」
 「そんな俺を満足させられるのはお前だけ、だからね?」
 有無を言わさずベッドに押し倒す。なんか抵抗されてるような気もしたけど、魔王である俺の愛しの相棒をそれはそれは美味しく頂いた。

1/5/2025, 12:37:11 AM


 ふわふわな黒に鼻を埋める。
 暖かく上下する腹に合せてゆっくりと息を吸う。
 お日様の匂い、猫の匂い。
 今日も元気でいてくれてありがとう。
 幸せをありがとう。