忘れたくて苦しいから
早く夜になってほしくて
笑みをたたえたその声が
嘘でもいいと思ってしまった

思い出して苦しむから
どうか朝を連れてこないで
指を絡めて握る手が
本当ならばと思ってしまった

あの日の温もり

伸びゆく影に
首をかしげて
夕日の赤さ
全身で受け
あれはなあにと
歩くあなたの
のびのびとした
小さな背中

ぼんやり見つめ
微笑んで
うつむき歩く
昨日の私

秋
暴力的な日差しが止んで
温い太陽 涼しい風が
僕らをねぎらう
夏の狂騒を
ゆっくり冷ましながら
寂しさをたたえて
やさしく微笑む
九月の終わり

ない声が
記憶の底で
私を笑う

ない視線
私の声を
今日も震わす

伏した両の目
止まらない汗
浅くなる息
「結構です」

一挙一動
雁字搦めで
こうも苦しい
形の無いもの

触れられた頬に
残る微熱を
涼しい風が
やさしく撫でる
秋