はぁ、
僕は丸い空を見上げたままため息をついた。その音も伽藍堂に吸い込まれていく。こんなに憂鬱なのは、もう長いことゆきも君も見ていないせいだった。昔、君が小さかった頃は一緒にゆきを眺めたものだのに。
「わぁーっ! すっごいきれぇ!」
はしゃぐ君は飽きずにずぅっとゆきがこらきら舞うのを見ていた。君は腕をぶんぶん振って、ぴょんぴょん飛び跳ねて、そしたらゆきはちらちらと舞う。そんな無邪気な様子は只々見ているだけの僕も心が躍らせた。あんなに楽しそうにしてたのに、君は会いに来てくれない。僕はまた君と一緒にゆきをみたいだけなのにな─────
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「あっ」
思い出から現実に引き戻されたように、私は白い息をついた。師走も走る12月。来週は雪だと天気予報士は言っていた。今のうちから大掃除に勤しむ私は、家中をひっくり返して周っていた。そして先刻、押し入れの奥から出した玩具箱から幼少期の思い出の品を見つけ出したのだ。
「懐かしいな」
今は亡き祖母にクリスマスの贈り物として貰ったスノードーム。中には三段重ねの雪だるまがこちらを見上げて佇んでいる。昔はこのちっちゃな銀世界が私を何時間も魅力したものだ。過ぎし冬の日に思いを馳せ、スノードームを上下に振った。しかし、振られたスノードームに水の重みは無く、揺れる水音もし無かった。嗚呼、もう一度あのミニチュアの雪の日を見たいという願いは叶いそうに無いらしい。と言うのも、中の水は干からびてしまっていたのだ。白と銀の粒だけが寂しげに雪だるまに積もっていた。それなら──────
「ほら、これなら雪だるまくんとまた一緒に雪が見れるね」
私はスノードームを窓際にそっと置いた。そして中の雪だるまを窓の方に向けて笑いかける。来週はもっと寒くなるから雪が降るらしいよ。あなたも雪が楽しみでしょ?
【 雪を待つ⠀】
「いま懐が寂しいの!」
親友の彼女がそう言うから、私達のクリスマスは近所の駅前のイルミネーションを見るだけの日となった。彼女は、かく言う私も趣味にお金を使い過ぎたのだ。夏休みの時は一緒に遊園地にでも行こーね!なんて話していたのに。
「きれいだねー」
「まあ確かにね」
確かに綺麗ではあるものの、決して大きな駅では無いから家庭のイルミネーションを少し豪華にした程度のものである。わざわざ見に来た人なんて私達ぐらいなのではないか。
「あっ! そう言えば、今日私メイク違うの気が付いた?」
彼女のイルミネーションへの感想はもう終わってしまったらしい。
「イルミネーションの輝きをイメージして、大きめのラメのアイシャドウにしたの」
そう言って、したり顔で彼女は目を瞑って指さし、瞼の上の輝きを見せつけてきた。
「きれいだね」
私がそう言うと、えへへと彼女は少し照れたように揺れて笑った。こちらを見ている彼女の黒い両の目にもイルミネーションの光が燦然と輝いていた。瞬きしては私を見ているきらきらした瞳。私は化粧だけでなく、彼女の自身のその目が、眩しい笑顔が、大好きだった。やっぱりあなたは
「きれいだね」
「もう聞いたよそれー」
また彼女は笑った。
【 イルミネーション】