当時仲の良かった上司と初めて終電まで飲んだとき、別れ際に「うっかり終点まで行かないように気を付けてね」と言われたことがある。
私の最寄り駅は職場から4つ目。
大丈夫、所要時間は約10分程度だし全然眠くない。
ほろ酔い気分だけど、意識はハッキリしている。
いつも通りに降りるだけ。
そう自分に言い聞かせ、iPod nanoでお気に入りの音楽を再生する。
1つ目……2つ目……次の次だ。
ちょっと眠くなって来たけど、まだ大丈夫。
3つ目……よしよし、次だな。
『次は○○駅、○○駅』
あー……何かめっちゃ眠い……帰ったら化粧落としてすぐ寝……お、この曲やっぱいつ聴いても良いなぁ……好きだわー……
『――左側の扉が開きます。ご注意ください――』
…………え、今どこだったっけ!?
微睡んでいた状態からハッと一気に引き戻される。
電車は最寄り駅で停まっているではないか。
慌てて電車からかけ降り、危なかった……と心底ホッとした溜め息を吐く。
まさに間一髪の出来事だった。
(ああ……ついにこの日が来てしまった)
【ユーザーの皆さまへ大切なお知らせ】とタイトルと共に、数ヶ月後にコンテンツのサービス終了を告げる文章がSNSの公式アカウントで発表された。
ソーシャルゲームは買い切りゲームとは違い、いつか必ず終わりを迎える日が訪れる。
最初から決まっていたことなのに。
それを分かっていながらも遊んでいたはずなのに。
キャラクターたちと共に過ごして来た数々の思い出が全部消えてしまうんだと思うと、何とも言えない気持ちがこみ上げる。
(……私この先、生きて行けるのかな)
部屋の棚に飾られた一番大好きなキャラクターのグッズたちに目を向け、そっとぬいぐるみを手に取って抱き締める。
たかが、ソーシャルゲームのデータで。
たかが、ゲームの中での空想のキャラクターで。
そう頭では分かっていても、寂しいものは寂しい。
何故、人は夢を見るのだろう。
何故、人は夢の内容を忘れてしまうのだろう。
目が覚めるまで自動的に記録して、あとでいつでも見返すことが出来るようになればいいのに。
それが可能になるのは、まだまだ遠い未来になるのだろうか。