ああ、もうわかったわかった
今日がひなまつりなのはもうわかった
めでたいめでたい、はいはい
俺には全く関係ないけれど
駅構内に溢れかえる大量の人々と
甘ったるい焼き菓子の匂いにはもう沢山だ
ひなまつりがなんだって?
いいなあ祝えるような人達は
こちとら何ヶ月も前から準備をして、
高いユンケルまで飲んで
備えに備えたプレゼンが見事大失敗
もう思い出したくもないから思い出さないけど
それはそれは……
一周まわって
拍手喝采!スタンディングオーべーション!
レベルの酷い出来だった
「さあ、どうぞどうぞ!残りおひとつです!」
もういい加減やかましい
怒りの念を込めてそちらを見ると、
馬鹿みたいな色のちまっこいケーキが1つ、
1000円の値札
アホか
一口1000円の着色料と砂糖の塊から目線を外す、
ふとその隣のショーケースに目が止まった
小豆色、まっ茶色、黄土色…の四角
羊羹か
馬鹿みたいに売れ残っている
店員らしきおばさんも売る気がないのか、
なにかを読んでいて俯いている
地味な色で、光も対して当てられず
硬そうで寂しそうに佇んでいる
気がつくと俺はそのショーケースの前に立って
おばさんの羊羹みたいな色の目と目が合っていた
なんだか突然謙虚な気持ちになり、
それを追い越すように悲しさが込み上げてきた
いつか報われたいよな
羊羹も、俺も
俺が声を発するより早く
「サービスしようか、お兄さん。どれがいい?」
と優しげな聞こえた時、
俺の目にうつる羊羹はもうぼやけていて、
「お姉さんのオススメで」
と言うのが精一杯だった
3/3/2023, 12:09:06 PM