眼下に、ぽつぽつと家々の明かりが灯る。まだ橙の残る空の下、同じく赤みを含んだ温かみのある光が増えていくのを、なんとはなしに眺めた。
暖色の灯は心が暖かくなるというのに、ギラギラとした突き刺す街あかりの方が馴染んでしまった。
長くここにいたせいだろう。
帰路に着く人間の道標になる灯火は待っている人があるからだ。自分があの明かりをつけることはあっても、ついている家に帰ることはない。
感傷でもなく事実として。
寒い日に暖かい部屋に帰ることも、暑い日に換気のされた部屋に帰ることも、穏やかな日に食事の用意された部屋に帰ることも、ない。
寂しいわけではないが、そんな経験はきっとずっとできないのは残念かとは思う。別に、家族ごっこがしたいわけでもないけれど。
目を凝らして、人の影が捉えることができるか試してみる。
手すりに肘をついて見慣れた景色を眺める自分に、並ぶ影が夕闇にひとつ。
いなくなればすぐに隣にくる相棒は、話があるわけでも、何をしたいわけでもなく、たぶんおちつかないだけなのだ。
共に部屋を暖めて、一緒に部屋の換気をし、並んで食事の用意をする。
そんな相手はいたなぁと、不思議そうにしている鼻を摘んでやった。
7/9/2024, 11:34:02 PM