『さあ皆さん、お待ちかね。年に一度の銀河陸上、いよいよ決勝戦!』
実況星人の声が銀河スタジアムに響き渡る。観客席は異星人たちの熱気で沸いていた。
『先頭は昨年の優勝者、植物星人リーフ選手と、光源星人のセコンド、ルミナ選手!』
青い蔦に覆われたリーフが颯爽と入場する。彼の隣にいるだけで頬が緩み、体から思わず光が漏れる。
――気が緩んでる。今日は彼の大事な日。もっと集中しなきゃ。
まもなく競技開始。リーフは他の選手たちと並び、腰を落としてスタートの合図を待つ。
スタートダッシュは勝敗にも大きく左右する。
私は意識を真ん中に集め、リーフの背中に光を放つタイミングを見計らう。
でも、思うように光が集まらない。どうして、こんな時に――。
思えば、私の光が弱くなり始めたのは、最終予選を終えた直後からだった。
原因は分かっている。彼に――恋をしたからだ。
何をしているときも彼の顔が浮かび、手元がおろそかになる。
その度にミスをして、気持ちが沈み、光が弱まる。
いつしか、恋心そのものが怖くなって――しまい込んだ。
スタートの号砲で我に返る。
――しまった。
そう思った時には、すでに選手たちが駆けだしていた。リーフだけが一歩出遅れる。
「ルミナ! しっかりするんだ!」
リーフの檄が飛ぶ。私は焦りの中で全身の力を振り絞る。
――どうして、なんでこんな弱い光しか出ないの……。
心の奥底から湧き上がる自己否定が、さらに発光を抑え込む。
強豪たちが、リーフを引き離していく。彼は必死に食らいつこうと歯を食いしばっているが、もはや集団の中盤にすら入れない。
「ウソ……こんなはずじゃ……」
中継モニターに映るリーフの苦しそうな表情を見て、私の胸が締め付けられる。
中間地点を過ぎ、リーフは後方から数えた方が早くなっていた。
――私、全然ダメじゃん。
絶望感に思わず力が抜ける。光どころか、自分自身さえも消えてしまいそうだった。
「ルミナ!」
コースからリーフの声が飛んでくる。
「自分を信じるんだ!」リーフが苦痛の中で震える声を振り絞る。「お前は、俺の太陽なんだ!」
リーフの言葉が、私のフィラメントを燃やす。
「俺は――お前の光が大好きだ!」
彼の言葉が、私の抵抗を一瞬で突き抜ける。
「私も……あなたが、大好き!」
気づけば叫んでいた。競技場中に響き渡るほどの、大きな声で。
瞬間、今までにないほどの光が全身から溢れ出る。
会場全体を覆いつくすような強烈な光。
リーフの色が濃い緑を取り戻し、生命力に満ちていく。
まるで別人のような加速を見せ、一気に前の選手を抜き去っていく。
ゴール目前、トップとの距離もあとわずかに迫る。
リーフはついに音速を超え、全身の葉々が燃えるように赤く色づく。
「これが俺の、燃える葉だぁ――ッ!」
私はリーフを想い、渾身の力で光を放出した。
光は、勝利への意志と共鳴し、彼を限界以上に押し上げた。
ゴールテープが切れる瞬間、リーフは前走者を半身の差で抜き去る――。
会場にけたたましいホイッスルの音が鳴り響く。
『リーフ選手、大逆転勝利!』
競技場が、熱狂の渦に包まれた。興奮冷めやらぬ中、ぐったりと倒れ込む私のもとに、リーフがふらつく足を引きずってやってくる。
「ルミナ……!」私は両手を広げて彼を迎え入れる。「やっぱり、お前は最高の太陽だよ!」
彼の汗と、植物の優しい香りが、私を包みこむ。私たちの身体から溢れる光が、絡み合い、一つになる。
もう、私たちは単なるセコンドと走者ではない。互いの光を必要とし、互いの愛によって輝く、人生のパートナーだ。
二人の新しいスタートを祝福するような歓声は、しばらく鳴り止むことはなかった。
#燃える葉
10/6/2025, 1:23:16 PM