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お洒落でスタイルも良くて、でも不器用で優しい彼。私と彼が交際を始めたのは二ヶ月前のこと。告白したのは私。正直、見切り発車だったけれど。彼が真っ赤になりながら承諾してくれた時は感極まったのを覚えている。

「あぁ、彼って直ぐスキンシップとるわよねぇ!そんな人の彼女なんて嫌にならない?」
大学の帰り道、派手な服装に厚い化粧をしている美人の女の人が私に話しかけてきた。表情や言葉遣いからして、悪意が混じっているのが感じ取れた。

彼…とは私の知っている彼と同一人物なのだろうか。
「彼、昔から女遊び激しかったのよ?知ってる?」
知っている。そのくらい。好きになった時、否、前から。噂で聞いたことがあった。

「…貴女みたいな貧相な身体してる地味な女のどこがよかったのかしら。彼も女を見る目がないのね。」
そう言われたとき、どきりとした。彼の隣に立った時、私は彼に釣り合っているのか。ずっと不安だった。否、今でも不安なのだ。その言葉に何も言い返せずにいると、女が声を荒らげる。
「何か言い返してみなさいよ!」

次の瞬間、ぱん、と乾いた音が鳴り響いた。はっとして顔を上げると私の前に見慣れた背中があった。
「あ…え?」
いちばん大好きで、いちばん会いたくない人。彼が彼女に平手打ちをしたのだ。
「おい、何やってんだ糞女。」
「え、ちょ、何して」
「だ、だって!此奴が貴方にはお似合いじゃないと思って…!」
「それが余計なお世話だって言ってんだよ。しかもお前、此奴のこと殴ろうとしただろ。正当防衛だかんな、ばーか」
なんで、この人の言葉で別れようと思ったのに、余計好きになっちゃうじゃない。

すると突然彼がこちらに振り返り、私を諭す。
「あ、泣いてんじゃねぇ!莫迦!俺が泣かせたみたいだろ!」
そう言うと、爽やかな香りがするハンカチで零れ落ちてきた私の涙を拭う。いつの間にか泣いていたようだ。そんな私に気を使ったのか、彼はカーディガンを脱いで、私の顔を隠すように優しく掛けた。
「ちょっと待ってろ、すぐ戻る。」
そうしてまた、私に背を向けた。

「あのなぁ、もうお前と関係切るって言っただろ。」
「だとしても!私が駄目であの子が良い理由が分からないわ!」
言い争いはどんどんヒートアップする。此処が誰もいない教室でよかった。
「お前みたいな糞女は分からなくていいんだよ。兎に角、俺には世界でいちばん愛しい女ができたんだ。お前みたいな都合のいい女じゃねぇ。お前は彼奴になれない。分かったら帰れ。」
「…もういいわよ!勝手にしなさい!」

ハイヒールの響く音が遠くなると、ふぅ、と息の吐く音が聞こえた。
「…大丈夫か?」
そう言って彼が覗き込んできた私の顔はまだ涙でぐっしょり濡れていた。なんだかとても悔しくて、彼にカーディガンを投げつけた。彼は何も悪くないのに。

「やっぱり、ふつりあいだよ。わたし。だって、貴方、女遊びはげしかったのに、そういうの、なれてるのに。わたしには全然手を出してこない。ほんとに、私の事すきなの?」
「当たり前だ、莫迦!」
そう言うと、私の身体を力任せに抱き寄せる。あ、暖かい。この体温もすきだなぁ。
「彼奴らみたいに簡単に手出せないんだよ!なんでか分かるか?」
突然のスキンシップにしどろもどろした私は首を横に振る。
「こんな、大事にしたいと思ったのはお前が初めてなんだよ、莫迦。」
『大切にしたい』という単語に私の胸が反応したのがわかった。あぁ、なんて単純なんだろう。わたしは。言葉は欺けるのに、確証はないのに。

「嘘だと思うなら確かめてみろよ、」
そう言うと、彼は私の手を掴み、彼の心の臓の部分に持っていく。どっ、どっ、どっ。想像よりかなり速いペースで動いていた。それは彼が私にどきどきしていることを表していて。涙が出るほど嬉しかった。
「ああっ!」
「わかったか、俺は抱擁だけで、こんな緊張してんだ。こんなの初めてなんだ。お前が。お前が初めて俺に大事にしたいなんて思わせたんだ。」
そう言うと、彼は私の額にキスをした。

9/20/2022, 4:24:09 PM