かたいなか

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「某ポケモ◯の、第2世代だったかな、『あなたにとってポケ◯ンは友達?仲間?道具?』みたいな3択答えさせるイベントがあったんだわ」
7月に「友情」と「友だちの思い出」、10月に「友達」がお題に出て、次は仲間か。
某所在住物書きは相変わらず、ため息を吐いて呟いた。わぁ。今回も簡単そうで高難度。

「当時はガキだったから、普通に『仲間』選んだけど、今思えばさ、道具だってバチクソ大事なら手入れもするし長い付き合いになるし、定期メンテもするじゃん。意外と、意外と……」
考えてみろよ、職場の仕事道具と入れ替わり激しい仕事仲間、どっちが大事にされてるよ。道具だろ。
再度ため息を吐き、物書きがぽつり。
「まぁ屁理屈だけどさ」

――――――

最近最近の都内某所、某職場の某支店、昼休憩。
お題回収役の名前を後輩、もとい後輩といい、
昼食後スマホを取り出して推しのゲームを起動し、
ガチャを、引いて、ひいて、ヒイテ。
現在、重複した低レアのキャラクターを、強化素材やガチャ石等々に、変換している。

虚無っている。瞳から、光が消えている。
つまり「そういうこと」である。

スポポポン、スポポポン、ポン。
高葉井のスマホの中では、選択されたコモンと、ノーマルと、スーパーレアの合計6種類20名が、
一気にまとめて、コタツの中に収容されて、
絶賛コタツムリ中の女性がスイッチをポン。
入れ替わりに経験値用ミカンとランクアップ用素材と、それからガチャ石が、排出された。

システム名、「スフィンクスのコタツ」。
ガチャで不要になった、あるいは重複し過ぎた「推しの『仲間』」を、推しのレベルなりスキル強化なりの足しにするコンテンツである。

「事前アナウンス、無かったけどさ」
虚無の瞳で高葉井が言った。
「今日からコモンとノーマルとスーレアと、SSRの上に、『クリスタルレア』っていうのが、キャラ名を出さずにサイレント実装されたんだってさ」

「へー。大変だね」
ととん、タン。 ととん、タン。
聞き手の、「付烏月」と書いて「ツウキ」と読む男は、ほぼほぼ自動応答状態。
早めに休憩を切り上げて、速乾インキによりチラシのスタンプ業務を再開している。
「後輩ちゃんの推しが、そのクリスタルレアでガチャに実装されて、爆死しちゃったの?」

「違うの。クリスタルレア、ガチャで出ないの」
「そーなんだー」
「推しは、どっちも、新規ガチャでSSR実装なの。ヒーロー・ヒロインコスの新規絵で、新規ボイス収録なの。アドミンジャーなの」
「そーなんだー」
「クリスタルレアは、スフィンクス様のコタツで、0.0001%の確率で、出てくるの。
今日、最初の1人が実装されたんだけど、『誰』が実装されたか、告知されてないの」
「ふーん」

「ちゃんと聞いてる?ツウキさん」
「そっちも虚無って自動音声状態でしょ?」
「うん」

スポポポン、スポポポン。
高葉井のスマホからは、既に完凸済みな、レア度の低い「仲間」の変換音が途切れない。
「夢、見たの。推しカプどっちも出てくる夢」
高葉井が言った。すなわち爆死の弁明であった。
「夢を信じないで、素直に、ピックアップ選択確定チケット使うべきだったのかなぁ」
スポポポン、スポポポン。
Nコリーさん、Sレアルー部長、行っておいで。
3%を引き当てて、ガチャ石になって帰っておいで。
高葉井はスマホをタップして、タップして、
「ん?」
最後の「仲間」を「スフィンクスのコタツ」に突っ込んだ途端、パタリ、指が固まった。

ロードを挟んだのだ。

「えっ、えっ、……え??」
見慣れたコタツの画面にも、変化があった。
コタツムリの女性が、コタツからミカンを取り出して、掲げたのだ。
それは透き通った、クリスタルの文旦。スフィンクスの至宝。「水晶文旦」であった。

掲げたクリスタルミカンが光を放ち、コタツムリの女性は不敵に笑う。「仲間」の変換結果に従って、獲得アイテム一覧が表示される。

ひゅっ。 高葉井が声無き驚愕の悲鳴を上げた。
20人の「仲間」を変換して、得たのはガチャ石2枠と、経験値用ミカン10枠、強化素材7枠。
残り1枠に「New!」のアイコンが付随している。
「新しい『仲間』」を得たのだ。
すなわち「0.0001%」の奇跡を――本日実装の新レアリティ、「クリスタルレア」を。

「なんで推しが夢に出てきたか、分かった」
高葉井の声は嬉し泣きに震えていた。
「クリスタルレアで実装されたの、ルリビタキ前部長だった。ルリビタキ現部長……私の推しの右側の、亡くなった先代さんだ。これが理由だったんだ」

「……お祝いのケーキ、注文承るよん」
はぁ。それは、良かったね。 菓子作りがトレンドの付烏月はすぐにメモを用意。
「モチーフは?」
高葉井のオーダーを、先回りで質問した。

12/11/2024, 6:17:27 AM