かたいなか

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「お題の後ろに言葉を補えば、世界に一つだけ『地軸があります』とか『間違いがあります』とか。
前の方なら『商業の』世界に一つだけ、『表の』世界に一つだけ、なんてハナシも書けそうだが、
商業の世界に一つだけ存在するタブーとか……?」

去年は「初めてのお得意様から貰った、世界で一つだけの500円玉」みたいな物語を書いた。
某所在住物書きはネットで「世界に一つだけ」をうたう記事をスワイプスワイプ。
ジュエリー、街づくり、スイーツに花に伝統工芸品。世界の一部界隈は「一つだけ」に溢れている。
たしかにハンドメイド業界は作家の手と目と感性と、それから心魂によって作られる一点物が多い。
それは物書きの世界も同様であろう。

「……俺の他にもこのアプリの中で、投稿を前半と後半に区切ってる仲間って居るんかな」
居なければ「これ」もいわゆる「一つ」である
――ただ希少性や意外性はどうだろう?

――――――

先日、私の部屋の冷蔵庫(として使ってたポータブル保冷庫)が壊れた。
安いし一人暮らしだから丁度良いやって買ったものだけど、ネットの一部さんによれば、
このポータブル保冷庫、「ポータブル」であることが前提で、冷蔵庫みたいに常時ずーっと通電し続けるようには、あんまり想定されてないらしい。
ホントかどうかは分かんない。
ただ私の「保冷庫壊れた」ってポスに返信してきた人は、「ポータブルをノンポータブルで冷蔵庫にしてるのはお前だけだ」って言ってた。

つまりこの人の返信が本当に事実なら、
私の壊れた保冷庫は、世界に一つだけの保冷庫だ。
世界に一つだけの、冷蔵庫に使われた保冷庫だ。
なお私の職場の先輩が以前ポータブルを冷蔵庫にしてたから、この返信は普通に間違いだったりする。

なお即座に小型冷蔵庫をネットでポチったけど
発送は今週末だそうです。

「で、後輩ちゃん、本日の愛妻弁当は?」
「いや先輩、私のお嫁さんじゃないし。そもそも先輩と私、食材のシェアとか生活費節約術とか普通にしょっちゅうやってるし」

「お嫁さんじゃなきゃ、おかん?」
「おかん。先輩がオカン……ちょっと分かる」

で、職場の先輩に私の保冷庫の中身を大量レスキューしてもらって、2日目のお昼。
昭和レトロな学生カバンのリメイク品、ショルダーバッグから、先輩が詰めてくれたお弁当を出す。
私は小学校も中学校も、ランドセルとかスクールバッグとかだったから全然世代じゃないけど、
なんとなく、それでも、学生に戻った気分。

支店長は私のショルダー見て、すぐ「本物の学生カバンにショルダーの金具を付けたもの」だって気付いた。ギリっギリそれを使ってた世代らしい。
「それこそ、保冷庫以上の『一つ』ではないのか」
って、支店長が言った。
本物かつ十分キレイなままの学生カバンにショルダーの金具を付けるなんて、あまり、誰も考え付かないのではないかね、って。

これが考えつくんだなぁ
(理由:私が好きなゲーム→そのコミカライズ版→
推しキャラの所属組織のビジネスバッグ
→まさに「これ」がモチーフだとゲームの原作者)

「先輩が言うには、今日の晩ごはんで、私の保冷庫の食材全部使い切れるって言ってた」
先輩が作ってくれたお弁当、スープジャーのフタを開けると、中は野菜とお肉たっぷりなオートミール雑炊。先輩お得意の低塩分低糖質ランチだ。
「保冷庫、冷蔵庫、ポータブル。食材に関わる電化製品って、安さだけで買っちゃダメだね……」

スプーンですくって、ふーふーして、はふはふ。
オカン先輩が諸事情で作ってくれた「おふくろの味」を食べる――とり塩雑炊だ。
「ところで後輩ちゃん、冷蔵庫来るの、たしか今週末か来週なんでしょ?」
「うん」
「藤森は、今日の晩ごはんまで、とりあずメシ作ってくれるんでしょ?」
「うん」

「明日以降どうすんの?」
「……うん」

オートミールうまい。お弁当をひとすくい、ふたすくい。ふーふーして食べる。
「大丈夫だよ。多分」
自分に言い聞かせた。
「コンビニ行けばお弁当変えるし。スーパーに惣菜もあるし。別に1週間くらい、冷蔵庫無くたって」
大丈夫、だいじょうぶ。
繰り返しながら食べた、一部私が食材提供して先輩が料理してくれた特製の「一つだけ弁当」は、
すぐ食べちゃって、お弁当づつみで結ばれて、学生カバンなショルダーにしまわれた。

9/10/2024, 3:25:55 AM