あにの川流れ

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 「おでかけ?」
 「えぇ」

 きみの手はお皿の水気をタオルで拭きとって、棚に戻した。
 ちょっとだけ小腹が空いて、パンをおやつに。紅茶風味のバケットをカリカリにトースターで焼いて、クリームチーズと合わせて。すっごくおいしかったけれど、きみってば
 「ちょ、これ、赤くて焼けてるのか分からないんですけれどッ⁉ エッ、これ、焼けてます?」
 ってうるさかったの。
 焦げないように時間を設定してるんだから。

 ぺろりと食べて、残り少ない午後はどうしようかと考えていたときに、きみが提案してきた。
 おでかけ。

 「どこいくの? あっ、もしかして、おひとり様一個の卵?」
 「そうじゃなくて」

 くすくす笑うきみ。

 「少しおしゃれをして……、そうですね、気合いを入れて夜は外で食べましょう」
 「ん、いいね」

 ……って話だったから、てっきりそういう、なんか、こう、おしゃれなところに食べにいくんだと思ってた。
 ふと横を見れば、ウキウキで食券を持つきみ。
 ささっと来た店員さんに、
 「ニンニクマシマシセアブラオオメノバリカタデ」
 やべえ呪文。

 ふんふん、って聞いていた店員さんが厨房で大声で短い呪文。もう、このお店お客も店員もやべえのしかいないんだと思うの。

 そういえば、家出るときは気付かなかったけれど、きみのそのお洋服もそう。気合い充分。この前、いきなり書道がしたいって言って思い切り墨跳ねさせたやつ。
 そういう感じの服になったからわりかし気に入ってた。もしかして、模様を足すつもり?

 運ばれてきたニンニクマシマシ。
 やば、においやばっ!

 「ふふ、明日が平日の日には食べられませんよ、こんなやべえの」
 「知ってた? 餃子もニンニクマシマシ」
 「もうっ、最オブ高ですね!」

 あ~、豪快にすすった。
 スープが跳ねるのを気にせず、思い切り。

 「おいしい?」
 「おいしいです‼ 生きる理由はこんなにすばらしんですね!」
 「んふ、そうだね」

 アッ、きみってば替え玉の食券用意してる。
 周到だぁ……!

 食べ終わってから毎回気付く、気づかされることもあるよね。
 お腹は不必要にパンパンだし。
 血中の塩分濃度が爆上がりして明日はむくんでそう。なんなら、今の段階で血管が薄ら痛い気がしてくる。
 きみのお洋服、おしぼりで染み抜きした跡がばっちりまだ乾いてないし。

 でも、こんなんだからこそ、何もかもが満たされて、ぶっちゃけ今がよければ良し! って、宵越しの金は持たないみたいに気が強くなっちゃう。

 「……食べましたね」
 「……食べちゃった」
 「ちょっともうひとつ、許されないこと言ってもいいですか?」
 「あのね、ぼくたち気が合う」

 さっさと家に帰って、いつも通りのダラダラできる部屋着。TV画面には好きな映像が流れて。
 ローテーブルにパーティー開けしたポテチ。

 カチャッ、……プシュ!
 もう、それはそれは、耳心地のいい音。

 「かんぱーい」

 もしかしたら今日はベッドまでいかずに、ここで寝落ちしちゃうかも。
 だから、暖房はタイマーもなしに点けっぱなし。

 きみとぼく、すっごい罪なことしてる!




#特別な夜



1/22/2023, 8:10:26 AM