黒尾 福

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 何でも入るカバンを手に入れた。
 文字通り何でも入るカバンだ。何をどれだけ詰めようと入るし、重さも変わらない。手提げかばんほどしかないので実用性はバッチリ。
 豚の刺繍がややダサいが、どこに行くにもこれがあれば平気だろう。あと中古らしいのでやや古ぼけているのが気になるくらいだろうか。
 取り出す時もすごく簡単だ。取りたいものを思いながら手を突っ込むだけでいい。
 しかし、なんでもは誇張じゃないかって、妹に言われた。
 そう思われるのは癪なので、これを引っ越しに使ってみようと思う。
 まずは服。それぞれ10着以上あるコートやシャツ、ズボンに、と詰め込んでみたがまだ入る。
 続いてテレビ。入るとも。
 タンスに机、もちろん入るとも。
 あまりにも気持ちよく入るものなので気分が良くなってきた。
 そんな折にドアホンが鳴る。声から妹であることが分かると、ふと悪戯心が湧いてきた。
 そうだと思いついて、鞄の中に自分がはいる。ここから飛び出して驚かせてやろうと思って。
「ちょっと、もう引っ越し終わったの?」
 妹の声が聞こえてくる。にししと笑い声が漏れそうに鳴るのをこらえてじっと底で待ち続けた。

「なにこれ、鞄? だっさ。……なんにも入ってないし」
 妹はカバンを裏返す。そこは裏地だけが広がっていて、ボロボロだった。裏返した拍子に左右がやや裂けてしまったが、彼女は気にも止めず、探し人を探すのであった。
 



テーマ:裏返し
タイトル:裏返しても荷物を溢さない、安心設計です!

8/22/2023, 1:51:14 PM