「おおー、今日も吹雪いてるなあ……」
稼業の冒険者業を少し休み、数年ぶりに里帰りした故郷の村。
俺は暖炉で暖められた部屋から、久しぶりに見る吹雪を眺めていた
この辺りは、冬の寒さが厳しい場所だ。
毎年この時期になると、吹雪が吹き荒れる。
酷い時にはすぐそこにあるはずの隣家すら見つけることが出来ない。
こうなっては、外に出ることは自殺行為。
農業が主体であるこの村は、冬の間は何もできず冬休みとなる。
しかし冬休みだからと言って、遊んでばかりはいられない。
冬の間、この村では内職をするのが普通だ。
民芸品というほど立派なものではないが、それっぽいお守りを手作りする。
こういった素朴なものが都会で売れるらしく、そこそこの収入源となっていた。
例に漏れず、俺の家族も冬の間は内職をしている。
実は俺の冒険者時代の稼ぎで貯えがたくさんあるので、そんなことする必要な無かったりするのだが、『逆にやらないと落ち着かないのよ』という母の言葉により、我が家でも内職をすることになっていた。
――俺を除いて……
というのも、俺に内職禁止令が出ているからだ。
理由は『壊滅的に不器用』だから。
完成品は目も当てられない程酷い出来栄えで、ゴミ同然。
材料を無駄にするばかりで、少しも儲けにならない
魔物を殺すのは一流だが、お守り一つ作れない役立たず。
それが俺。
だから外に出れなくなってからは、こうして家族を眺めているのが俺の仕事。
けど見るだけというのは、どうしても落ち着かない
じっとしていたほうが、みんなのためになる事は分かっている。
分かっているのだが、どうしても自分だけがサボっているようで居心地が悪い。
いたたまれず、俺は窓の外を見る。
俺に出来るのは、邪魔しないよう家族から離れている事だけ。
体が寒いのは、窓から入って来る冷気か、それとも自身の不甲斐なさからか。
「バン様、落ち着きませんか」
俺が震えていると、妻のクレアが声をかけてきた。
所在なさげにしているのを見かねたのだろう。
こんな役立たず、放っておいてもバチは当たらないだろうに……
「ああ、何もすることが無いと変になりそうだ。
せめて剣の素振りをしたいが、こうも家が狭くちゃな……」
俺が愚痴ると、少し間が置いてクレアが提案する
「なら本を読むというのはどうでしょう?
隣の部屋に何冊かあったはずですが……」
「悪い案ではないけど却下だ。
この家にある本はもう全部読んだ。
何回もな……」
「そうでしたか……」
「冬に備えて、もっと本を買っておけばよかったよ。
久しぶりの故郷だったから、冬の過ごし方を忘れていた」
「読書がダメとなると……」
クレアは内職の手をとめ、顎に手を当てて考え事をする。
俺の問題だというのに、どうやら一生懸命考えてくれるらしい。
クレアには何の得にもならないというのに……
まったく人のいい奴だ。
しばらく考え込んだのち、クレアは顔の前でポンと手を叩く。
「では、本を書くのはどうでしょう?」
「本を書く?」
予想外の提案に、俺はあっけに取れる。
だがすぐに頭を切り替え、クレアの案を検討する
『本を書く』
なるほど、少し突拍子もないが、確かにいい案だ
確かに紙とペンがあれば出来るし、壊滅的に不器用でも問題ない。
それに書くことなら沢山ある。
自分で言うのもなんだが、俺は一流の冒険者。
いろんな場所に行って、いろんなダンジョンにも潜った。
話題には事欠かない。
けれど、問題が一つ
「だけど本なんて書いたことがないぞ。
下手くその文章なんて、だれも見向きしないよ」
「そこは書いてから考えましょう。
どうせやることが無いのでしょう?
売れるかどうかは考えず、まずは時間を潰すのが一番かと思います」
クレアの言う通りだった。
たしかに書く前に、売れるかどうかを気にしても仕方ないだろう。
ダメで元々、時間が潰せるだけありがたいのだ。
「じゃあ、本を書くか……
何を書こうかな」
俺は準備をしようと立ち上がると、安心したのかクレアは再び内職の手を動かし始めた。
その様子を見て、俺は心の中でクレアに感謝する
クレアは俺が困った時、いつも手を差し伸べて助けて来る。
彼女にとって当然のことなのだろうが、いつも助けられていた
今日もまた助けてもらった。
俺には勿体ない妻である。
けれど、こちらからはあまり返せるものが無いのが、少しだけ悔しい
何か、返せるものがあればいいのだけど……
そうだ。
せっかくなので、クレアが喜ぶものを書こう。
あまり切った張ったの話は苦手そうなので、ほのぼのした話でも書くか。
依頼でドラゴン退治に出かけたのに、なぜかファッションショーが開催された話とか気に入ってくれるかもしれない。
うん、やる気が出てきたぞ
「さて、ヘタクソなりに書きますか」
面白くなくてもファンになってくれるだろう妻の顔を思い浮かべながら、俺は執筆にとりかかるのであった
12/29/2024, 3:21:44 PM