海月 時

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「付き合ってください。」
彼女からの一言で、俺らの物語は始まった。

「将来は、君のお嫁さんにしてくれますか?」
物語の中盤。彼女は、頬を染めながら、俺に尋ねた。俺は、彼女を抱きしめながら言った。
「もちろん。だから、この指は残していてください。」
俺が言うと、彼女は更に赤くなった。その姿が、とても愛おしかった。
「卒業したら、一緒にサイズ測ろうね。」
俺がからかうように言うと、彼女は拗ねてしまった。それでも、小さく頷いてくれた。あぁ、俺はなんて幸せなのだろう。ずっと、この幸せが続いて欲しい。そう心から願った。

しかし、人生思い通りにいかない。彼女は交通事故に遭い、この世を去った。ここで、俺らの物語は幕を閉じた。

俺は部屋の外に出れなくなった。外に出ると、彼女との思い出が散らばっているから。そんなものを思い出してしまったら、きっと俺は立ち直れない。俺は、部屋の隅に蹲ったまま。傍には、彼女に渡すはずだった指輪。
「内緒にしてたのになー。」
時々、考えてしまう。あの事故がなかったら、俺達はずっと幸せだった。そんな起きない、もう一つの物語。あぁ、俺はもう駄目みたいだ。

10/29/2024, 2:47:17 PM