紗夢(シャム)

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【海の底】
【創作】【宵(よい)と暁(あかとき)】

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 ここは海の底。
 深くて、暗くて、冷たい。

 でも、もうそれも、
 よく分からなくなってきた。

 (……消えてく……)

 こぽこぽ、こぽこぽ。
 手足の先から、少しずつ。
 躰が泡沫(あわ)になっていく。

 (……サイダーみたい……)

 自分の躰から上がっていく、
 たくさんの小さな泡沫の粒。

 ただそれを、不思議な気持ちで
 見つめている。

 ――でも、だんだん、意識が、薄れて。

 (……ああ、もう……視えない)

 感覚も、何も、失くなっ、
 て。

 ………………。

 …………。

 ……。

 



「――……き、あかとき」
「――……?」


1/21 AM 3:00

「暁?」
「――……あれ?」

 ふっ、と意識が覚醒する。

「――ここ、どこ?」
「何言ってるの。アンタの家でしょ」

 呆れたような、でもどこか
 ほっとしたような宵ちゃんの声。
 
 わたしは布団で仰向けになっていて。
 左隣に宵ちゃん。右隣に真夜(よる)くん。
 2人は上半身を起こして、
 わたしの顔を覗き込むような体勢でいて。
 なぜか2人とも、わたしの手を握っている。
 
「……えーと。……なにごと?」
「暁。何処か痛いとか、苦しいとか、ないか?」
「え? ……うん、大丈夫。どこも変じゃない」
「なら、良かった」

 真夜くんも、あきらかに安堵した声。
 本当に、どうしたんだろう。

「……魘されてたんだよ、暁。
 そういう時、無理に起こしたり
 しない方がいいらしいけど……、
 もし身体の異常だったら危険かと思って」
「うなされてた?」
「だいぶね。自覚はないみたいだけど」
「うん、全然、うなされてた自覚はないの。
 ――あ、でも、確かに夢は見てたかも」
「怖かった?」
「あんまりはっきり覚えてないけど、
 なんだろう……人魚? になった夢かな。
 ……ダメ、もう忘れちゃった」
「まぁ、夢ってそういうものだろうし」
「ごめんね、心配させちゃった?」
「いいわよ、もう」

 握られた手をぎゅっと握り返す。

 夢の中で海の底にいたわたしが、
 痛かったり苦しかったりしたのかは
 思い出せない。
 うなされるくらい、悲しかったり
 怖かったりしたのかも。

「宵ちゃん、真夜くん。大好き」
「「知ってる」」

 だけど、2人の優しさの海に溺れるのは
 こんなにも心地いい。

1/21/2023, 9:59:18 AM