名無しさん

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#嵐が来ようとも


その船は、たとえどんな嵐が来ようとも決して沈まぬ、不沈船として名を轟かせていた。

ある船大工曰く、その船は船体がとても頑丈だと聞いたと誇らしげに語る。
またある航海士曰く、最新鋭の航海技術を駆使した素晴らしい船だと、まるで恋する乙女のように目を輝かせそう言った。
またある下っ端船員曰く、ベテランもベテランな船長と副船長の素晴らしい操船技術があってこそだと豪語していた。

そんなみなみなの期待と羨望の的だった不沈船は、ある日、穏やかな春の海へ航海に出た先で、こつ然とその姿を消してしまった。

船体の欠片もなく、乗客乗組員その全てが忽然と消えたのだ。

捜索隊が結成され、船が消えた辺りを組まなく探すも、その残骸1つすら見つからぬまま一年が経ち、五年が過ぎ、そして何十年、何百年という長い長い月日が過ぎていた。

そんなある冬の日、消えたはずの不沈船が突如として姿を現した。しかしそこに人の姿はなく、ただ出航したそのままの姿で霧深い海の上をスルスルと滑り、人々の前に姿を現したのだ。

これに色めき立ったのはゴシップ誌の記者たちで、彼らは突然現れた不沈船の位置を把握するや否や、我先にとそこへ乗り込んでいく。

そう、その姿はさながらハーメルンの笛吹き男に出てくる子どもたちのよう。

そうして記者の最後の一人が船内に入っていった次の瞬間、またしても不沈船はその巨大な姿を霧の中へと隠してしまった。

そしてその一部始終を見ていたのはどこまでも続く穏やかな波間と、空にぽっかりと浮かんだ猫目月だけだ。

7/29/2023, 5:47:41 PM