9/21「秋恋」
「秋の恋は本物になりやすいんだって」
そんな話を女子がしていたから、アイツの動向が気にかかる。
男女問わず人気でいつも人に囲まれているアイツに、もし好きな人ができたとか、告白されたとか、そんな話を聞かされたら平静でいられる自信はない。
いっそ俺から告白するか? いやいやいや。アイツとは普通に幼なじみだし、アイツが俺に気があるわけがない。
「将太」
俺に気づいたアイツが近寄ってくる。
「ちょっと屋上付き合えよ」
「お、おう?」
腕を引かれて階段を登る。屋上に出て、手すりにもたれて、アイツは言った。
「オレさ、ずっとお前のこと好きだから」
にっこりと笑う顔に邪気はない。―――いや待って、今何て言った?
「秋の恋とか全然関係なく、ずっと前から年中お前のこと好きだから。それだけ言っときたかった」
言い残して、アイツは悠々と校舎に戻って行った。
アイツに人の心を読む力があることを告白されるのは、それから10年後だ。
(所要時間:9分)
9/21/2023, 10:55:03 AM