シオン

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 一般的に人間の顔は、光り輝いていることなんてない。だけれども、時にキラキラと輝いているように見える時がある。それは自分に向けられた満面の笑みだったり、何か楽しいことをしている時に見せる綺麗な笑顔だったり、恋をしている相手の表情だったり。
 そんな一瞬の気まぐれのようなきらめきを閉じ込めることは、基本的にできない。だけれども、それは閉じ込めたいと思ってしまったのだ、僕は。
 だけれども、まぁ、現実はうまくいくわけがない。きらめきというものは、永続的ではなく、それを保ち続けるにもエネルギーがいるし、何より、相手との信頼関係が必要なのだ。
「…………どういうつもり」
 警戒がにじみ出る声音でそんなことを呟いた彼女の表情が、まさか光り輝いてるわけがなく、むしろ、最初に会った頃のように、まるで敵を見ているかのように睨みつけていた。
「だから、最初に言っただろ。君の笑顔が、いや君の顔がとても光り輝いて見えたからさ、いつでも見えるように閉じ込めようと思ったんだよ」
「…………こんな真似許されると思ってるの? ボクは権力者なんだよ」
 だから何なのだと言ったら、彼女のプライドを傷つけることなど、百も承知で。まさかそんな言葉を吐いてまで、彼女の輝きをさらに遠ざけたいとは思わないから、僕は曖昧に微笑んだ。だけど、その態度が逆に彼女の機嫌を損ねたらしい。さらに不機嫌な顔でこちらを見つめた。
「…………ずっと一緒にいて、少しは君のことわかってきたと思ったんだけど」
「相手の本質をそんなたかが数ヶ月にも満たないような年月で測ろうなんてのもおかしな話じゃないかい?」
「………………そうかもしれないけれど。でも、まさかそんな馬鹿げた理由で、ボクのこと鳥かごに閉じ込めるなんて思わなかった」
 白い鳥かご。網目模様になっているけれどせいぜい手しか出ないような、そんな細い隙間が無数に空いている、そんな鳥かごに彼女は閉じ込められている。
 手にしたかったきらめきは自分がその芽ごと潰してしまったらしいけれど、彼女が反抗的な態度をしながらも、こちらに対抗するすべがなくて鳥かごの中に収まっている様子を見るのは、少しだけ優越感を感じて。
 だから、当社の目的は達成できていないというのに、彼女のことを解放できないのだろうなんて、僕は自分のことを嘲笑った。

9/4/2024, 1:54:51 PM