「繋いだ手」
「ごめん!急なお客さん来たから遅れます」
それだけ送って私は仕事に戻った
思いの外長引いてしまって終わったら陽が暮れていた
待ち合わせ時間を1時間25分オーバーしていた
どこかでお茶でもしてくれてるかなと
ゆっくりと液晶画面をみると
既読がついていない私のメッセージだけが残っていた
心臓の鼓動が早くなり目がチカチカしてくる
頭の中は?マークでいっぱいだ
どうなってるのか聞きたい気持ちを抑えながら
「遅くなってごめんなさい!今終わったよ!」
「どこにいるの?どこにいけばいい?」と連投するけど
やっぱりあなたは読んでくれない
鞄を引っ張って、挨拶もそこそこに店を出る
怒って帰ってしまったのか
何か事件か事故にあったのか
昨日まで彼と思ってたのは夢か幻だったのか
不安からおふざけまでいろんな理由を思い浮かべては
周りの景色と白い息と一緒に消えていった
信号待ちで電話を鳴らしてみるけどやっぱり繋がらない
イライラとそわそわで横断歩道で足踏みしていた
待ち合わせ時間から1時43分後
暗がりの中で文庫本を読む彼は今着いたみたいにそこにいた
息を切らし棒立ちになっているわたしに向かって
「おつかれさま!」と口を振るわせながら言った
「寝坊して遅刻しそうやったから急いだら充電15しかなくて」
「連絡できんくてごめんな、心配したやんな」
「あや、いつくるかわからんし、ここにいてたらいいかなって」
私が聞きたいことを一通り教えてくれた彼は
寒さで固まった顔を精いっぱい崩して笑っていた
「急にお客さんきて…ごめんなさい…」
そう言って私は彼の手を握る
冷たさが待ち時間の長さを教えてくれる
「うんうん、仕事頑張ってきたんやな」
「缶コーヒー飲み過ぎてトイレ行きたいし、早よ店行こう」
歩き出した彼の手を私はいつもより強めに握った
9/20/2025, 10:17:14 PM