創作「後悔」
急いで部活に向かう途中、俺は廊下の角から曲がって来た誰かとぶつかった。その拍子に俺は運んでいた原稿用紙を派手にばらまいたのだった。
はらはらと原稿用紙が散る刹那、踏みとどまった俺と転んだ女子生徒の目が合う。ツインテールの女子は驚いた後、キッと俺をにらんだ。
「ちょっと、ちゃんと前見て歩いてよね!」
しりもちをついたツインテールの女子に一喝され俺は状況を思い出す。
「うわぁ、ごめん! 痛かったよね立てそう?」
「まぁ、手を借りる程ではないわ」
そう言って難なく立ち上がったため、俺はひとまずほっとする。しかし、すぐにツインテールの女子は必死に辺りを見回す。
「ファイルはどこ?」
彼女が持っていたらしいファイルは散らばった原稿用紙に隠れてしまったようだ。俺は原稿用紙を回収しつつ、ファイルを探す。
ほぼ回収し終えた頃に黄色い表面が見えた。見つけたことを伝えるとツインテールの女子がファイルを拾い挙げる。ぱさりと中身がこぼれた。
「?!」
課題のプリントに紛れて、シャープペンで描かれた耽美で妖艶なイラストが三、四枚廊下に散らばった。ツインテールの女子は見るからに狼狽している。
「ち、違うの! これはね、その……あの、違うの!」
「へぇ、キミってイラスト上手なんだな」
「……は?」
「ほら、イラスト上手だなって。これってキミが描いたんだろ?違うの?」
「まぁ、アタシが描いたけど……もう、もう、帰ろう。ぶつかってごめんなさいね!」
ツインテールの女子は急いでイラストをかき集め、足早に去って行った。
「あれ?あの絵柄、どっかでみたような……あ、やっべ、部活遅れる」
あの時のツインテールの女子が、実は俺が好きな絵のイラストレーター本人であることを知ったのは、その女子が転校した後のことだった。
(終)
5/15/2024, 12:07:41 PM