揺れる羽根
風が吹く。
その風に乗り、1話の烏が青空を切り裂くように横切る。その翼は黒く、羽根の1枚1枚が太陽に照らされてツヤツヤと濡れたように光る。
烏は山へ降り立った。
野生の生き物と言葉を交わし、木漏れ日を浴びながらスイスイと木々の枝葉を避けて飛んだ。
一声鳴くと、辺りに響き声が帰ってくる。
風が優しく吹き、烏の羽根を優しく揺らした。
烏は海を羽ばたいた。
黒い翼は水面に反射し、水面下の生き物に目もくれずに飛び続けた。太陽の日差しが増し、濡れた羽根も煌めきが増す。
一声鳴くと、どこまでも遠くへ声が響き渡る。
風が強く吹き、烏の羽根を激しく揺らした。
烏は都会にたどり着いた。
所狭しと並んだ建物を下へ避けながら、広い空を悠々と翼を大きく広げて羽ばたいた。
地面に這い蹲るように居る二足歩行の生き物が有象無象にいる。奴らは狭く暗い地面を歩き、下を向いていた。青く広い空を見上げることはなかった。
なんともったいない
烏は二足歩行の動物を憐れむように一声鳴くが、都会の騒音に呑まれ声は消えていった。
バシッと音がして、烏は落ちた。透明の何かにぶつかり、そのまま真っ逆さまに落ちていった。
窓と地面からの衝撃で、烏は路上で息絶えた。
かわいそうに
気持ち悪い
二足歩行の動物は烏を憐れみ侮蔑の視線を向け、その声は意識が遠のく烏の脳内に響く。
時間が過ぎ、烏の身体は温度を失い固く固まっていった。
風が冷たく吹き、烏の羽根は揺れることはなかった。
10/25/2025, 1:11:29 PM