【終点】
ガタンゴトンと揺れながら、電車は人々を運ぶ。
駅を通過するごとに人は減っていき、シートが空いた。
座席に座ると、疲れからか強い眠気に襲われる。
ああ、少しだけ、眠っても……いいかな…………
「お客様、お客様。こちら終着駅となります」
優しく肩を叩かれ、誰かの声で目が覚める。
頭にもやがかかったように思考はぼんやりとしている。
気を抜いたら、また微睡みに落ちてしまいそうだ。
私を起こした声の主は、服装から判断するに車掌だろう。
「お目覚めですか。ではお気をつけてお帰りください」
にこりと笑う車掌に見送られ、降りた直後に扉が閉まる。
最寄り駅を寝過ごしたせいで知らない駅に来てしまった。
親睦会という名の飲み会で遅くなり、今のが最終電車。
ほろ酔いの状態で一時間以上も歩くのは遠慮したい。
とりあえず地上に出るため、エスカレーターに乗る。
改札を通るとき、ピピッ、ピピッとなぜか二回鳴った。
不具合だろうか。振り返って見るも人影はない。
「あの。いま二回鳴りませんでした?」
聞いてみたら、改札横にいる駅員は平然と答えた。
「鳴りましたよ。男性が入っていかれましたから」
それがどうかしましたか、と言いたげに首を傾げている。
「え? 誰もいませんでしたよね?」
重ねて問うと駅員は一瞬困惑し、しかし笑みを浮かべた。
「ええ。誰もいませんでしたけど、男性が通ったんです」
最終電車の着いた終着駅に見えない男性が入っていった?
難解ななぞなぞみたいで意味がわからない。
「まだ電車あるんですか?」「いえ、本日はありません」
駅員は加えて言う。「あなたの終着駅はこちらですから」
8/11/2023, 9:35:14 AM