マクラ

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『風に乗って』

風に乗って、雨の匂いがした。
今は晴れているが、もうすぐ雨が降るのだろう。
雨が降る前に全部終わらせよう。

「さて、この事件の犯人がわかりましたよ」

探偵がコツコツと部屋を歩きながら、話をはじめた。
部屋に集められた皆は驚愕の表情を浮かべる。

「お前、何言ってんだよ!?」
「これは立派な殺人事件です」

怒りやすい長男が探偵に食って掛かる。
しかし探偵は冷静に話し続けた。

「ではまず事件を時系列ごとに整理しましょう」

昨晩22時頃、屋敷の主人が体調が良くないとはやめに就寝。いつも通り、寝室は内側から鍵がかけられた事を寝室まで薬を運んだメイドが確認。

翌6時、メイドがいつも通り主人の起床時間に合わせて寝室に向かうも応答なし。執事がマスターキーを使って寝室解錠、室内で主人が死亡しているのを発見。
その際、メイドの悲鳴で私含め家人5名が集合するも奥方が不在。

7時頃、皆で奥方の部屋へ向かうも応答なし。鍵は同じくマスターキーにて解錠し、室内で奥方が死亡しているのが発見される。
続く衝撃でメイドが気絶。執事が部屋へ送っていくこととなり、一時解散。

9時頃、空腹により長男が食堂へ移動。そこでコックも兼ねていた執事の死体を発見。皆の無事を確認するため長男がそれぞれの部屋へ向かうもメイド、長女、長女の旦那、次男、が死亡していた。

「と、概ねこんな所ですかね」

コツコツと部屋を歩き回りながら話していた探偵の足が止まる。
長男は両拳で勢いよく机を叩く。

「もう残ってるのは俺たちしかいないだろうが」
「えぇ、だから簡単な推理でしたよ」

犯人は貴方だ、と探偵は私を指差す。
それまで努めて平静を装っていたけれど、もう我慢が出来なかった。

「そうですよ、私が全て殺したんです」

可笑しくて可笑しくて笑ってしまう。
鳩が豆鉄砲くらったような驚き顔の長男なんて本当に見ものだわ。
そのまま私はエプロンの下に隠し持っていたナイフで
長男の胸を一突き。
ついでに探偵にもナイフを投げた。

「なぜ、こんな事を……」

探偵ならこれくらい躱せるかとおもったけれど、見事命中。
最後まで話す前に絶命。
実に呆気ない。
興醒めね。

時計が12時を告げる。
しとしとと雨が降ってきた。

「はぁ」

つまらない想像はおしまい。
春は嫌ね。
私は駆除した害虫の後片付けをしながら、掃除のため開けていた窓を閉めた。

4/29/2024, 1:56:54 PM