『世界の終わりに君と』
ある日幼い私は、母からとある世界が終わる話を聞いた。
なんでも、その世界は開始早々に終わる日を予言されていたらしい。
「まあ、実際は1週間早まったのだけどね」
母はカラカラ笑いながら言っていた。
その世界は、ある意味では完成されていたらしい。
なにせ、住人が生きるために必要な栄養や空気は直接体に与えられる。好きな時に眠り、好きな時に目覚める。
何より、住人は、世界にすっぽり包まれて守られていた。
「そんな世界に、あなたはいたのよ。覚えてないでしょうけどね」
母はしみじみと言っていた。
「でも、最後の方は窮屈そうだったわ。よっぽど早く出たかったのでしょうね、あなた」
そして、世界が終わる時が来た。
「ホンットに痛かったのよぉ。もちろん」
母は力強く言っていた。
「でも、あなたも大変だったと思うわ。だって、それまでずっと過ごしてきた世界を出ていくわけでしょ。それも、命がけで。本当に、お互い健康でよかったわ。ま、だいぶ端折ったけども、とにかく、こうして……」
「……こうして母さんは、とある世界の終わりに君と出会ったわけでした」
母は笑って、幼い日の私の頭をクシャッと撫でた。
「以上、おしまい。ハッピーバースデー」
6/7/2023, 1:33:33 PM