ぬんっ ぬんっ ぬんっ
彼女の声で目が覚める。大方棚の上のコーヒーかなにかを取ろうと手を伸ばしているのだろうが、掛け声が間抜け可愛くて笑みが溢れる。
そっとキッチンを覗くと、指先が触れる程度しか届いておらず、必死に手を伸ばしながら「ぬ〜〜んっ」と声を出す彼女がいた。かわいい。
「ほら、これでいいか?」
すっと取ってやると、嬉しそうな顔をするでもなく、眉尻をさげられた。
「……起こしちゃいました?」
「ちょうどコーヒーが飲みたかったところだ。入れてくれるか?」
頭を撫でるととたんに表情は明るくなりいそいそとコーヒーを入れる。
「コーヒーミルでいれるのも挑戦してみたいんですよね。」
とぽぽ、とドリッパーにお湯を入れる。ふわりと空間にコーヒーの匂いが広がった。
「ブラックですか?」
「ああ。お前はミルクだろ?」
「ええ、たっぷりです!」
机の上に置かれたコーヒーを2人で飲む。あぁ、幸せだ。
「コーヒーの粉、あんなに上に置いた覚えがないんですけどねえ……。」
「俺がおいたからな。」
彼女は目を丸くしたかと思ったら頬を膨らませて拗ねた顔をする。
「どうしてそんな意地悪するですか?」
「お前と一緒にやる口実ができるからだよ。」
ごめんごめん、と頭を撫でると彼女はふいとそっぽを向く。あぁかわいい。
「……コーヒーの匂いの中、おはようって起こしに行きたかったんです。」
蚊の鳴くような声に、思わず彼女を抱きしめる。この込み上がる気持ちは、きっと。
「期待して、待ってる。」
彼女の赤い耳に頬擦りしながら囁いた。
【今を生きる】
7/21/2025, 4:24:10 AM