お題「月夜」
なんとはなしに空を見上げた。
視界には辺り一面の星空…ではなくただありふれた暗闇と
少しの星。別段普段と変化はなく、広がる夜空に溜息を溢す。白む息が蒸気となって景色に滲む。
あれが冬の大六角だよと、教えてくれたのは彼女だった。
自分は彼女の寒さで余計に白くなった細い指に目を奪われてそれどころではなかったけれど。
寒いからと理由を付けて、手を差し出す。仄かな月明かりに照らされた横顔に、涼やかな声に、柔らかな眼差しに。
幸せな時間だった。いつまでも続けば良いと願った幸福。
たぶんあれは幸せだった。
彼女が居なくなって、もう8年。
3/7/2023, 2:13:20 PM