vivi

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【麦わら帽子】

夏の日差しには慣れているはずだった。
しかし体はすっかり忘れてしまったらしい。また、あの頃よりも年々増している猛暑がどんどん体力を奪っていく。

「藤真先生ー!暑いんだけど!」
「俺だって暑い。いいから手を動かせ。あと5分したら休憩入れるから」

そう言うと生徒たちは渋々といった様子で草むしりを再開した。

高校教師になってもうすぐ10年になろうとしていた。
膝を壊してしまったことによってバスケット人生を諦めた俺は、教師になることを選んだ。初めは体育教師になって今度こそ正真正銘の「監督」になることを望んでいた。しかし現実はそう上手くいくはずもなく、国語を担当している。

麦わら帽子のつばを上げ、空を見上げる。
そこにはあの頃と変わらない夏の空が広がっていた。
でも変わっていないのは空だけだ。

俺もずいぶんと変わった。
そりゃ10年も経てば人は変わる。取り巻く環境も、流れる時間のスピードも変わっていく。
いつまでもあの夏を懐かしむのはやめようと決めたはずなのに、この時期になるとどうしても思い出しては心の隅がじくじくとする時がある。

こめかみから流れる汗を手の甲で拭って立ち上がり、少しぐんと背を伸ばす。

現実を生きろ。

何度も言い聞かせてきた言葉を胸の中で呟いて、各々草むしりをしている生徒たちに声をかける。

「さあ、休憩しよう」


8/12/2023, 4:45:44 AM