この世界では飛ぶことが普通である。人々の背中からは翼が生えており、翼を羽ばたかせることで空を自由に飛び回る。
なのに、私だけは空を飛ぶことができなかった。翼はあるのに機能してくれないのだ。とんだサボり魔の翼に当たってしまったらしい。
「どうして飛ばないの?」
友人は不思議そうに私を見ていた。腹立たしいことに空を飛んで、高いところから私を見下ろす。降りてこいと言いたかったけれど、空を飛べるのが普通なのだから私は何も言えなかった。
「……気分が乗ったら飛ぶよ」
「ふうん。じゃあ、その羽は飾り?」
きっと彼女には私を馬鹿にする意図はないのだろう。どうして空は青いの、と質問する幼子と同じ表情をしているから。
「……そうだよ。とびきりおしゃれでしょう?」
全ての感情に蓋をして私は友人を笑顔で見上げた。友人もぱああと笑って言った。
「うん、素敵!」
そう言って飛んでいってしまう。取り残された私は一人しゃがみ込んだ。
飛べない翼には意味がない。でも、私は別に飛べなくてもいいと思うのだ。ただ普通になりたかった。ただそれだけなのに、それさえも叶わない。
世界は普通じゃない者に優しくなりつつある。
でも私の望んだ世界はそうじゃない。私は優しくされたいわけではないのだ。
ただ、普通になりたい。普通に生きて普通に笑って普通に馴染みたい。
翼を撫でながら私は空を歩いた。
11/11/2023, 4:41:37 PM