せつか

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この部屋に他人を入れたのは四回。
私はキッチンでコーヒーとお菓子を用意しながらアンテナを張り巡らせる。

一人目。割とイケメンで、明るい人だった。
「きったね! なにこのぬいぐるみ」
言語道断。すぐに別れた。

二人目。お喋りが好きで、私と本の趣味も合う年上の女の人。
「本の趣味は合うけどこういうとこのセンスは合わないね」
これはまだ許容範囲。けれど次が駄目だった。
彼女の手がいつの間にか伸びて、〝彼〟に触れていた。すぐに別れた。

三人目。うんと年下の、やっと大学を出たばかりのゲーマーの男の子。
「年代物ですね。フリマサイトに出せば高く売れるんじゃないですか?」
価値観が違いすぎた。〝彼〟はアンティークでも無ければヴィンテージでもない。すぐに別れた。

四人目は疎遠になっていた姉。来るなり金の無心をしてきたばかりか、〝彼〟の腹を踏みつけた。
許せなかった。すぐに殺した。

五人目の貴方はどうだろう?
左右の目の大きさが違う、右の腕と左の足の色が違う、耳が片方千切れかけた〝彼〟を見て、どんな反応をするのだろう?

私は部屋の片隅にいる〝彼〟に視線を送る。
子供の頃からずっと一緒の〝彼〟。
今はもうくたびれて、色あせてしまった〝彼〟。
〝彼〟にきちんと接してくれる人を、私にきちんと向き合ってくれる人を、私はずっと待っている。



END


「部屋の片隅」

12/8/2023, 8:47:25 AM