休日の午後、暇だったので冷やかしでやって来た近所の電器店。
その店の一角に、満開のサクラが咲いていた。
あまりに場違いで現実離れしているのにサクラ。
明らかにおかしいのに目が離せない。
それほどまでに、目の前のサクラは美しかった。
見とれていると、ひとひらの花びらが目の前を舞う
何気なく手のひらで掬い取ろうとするが、しかし花びらは手をすり抜ける。
そこで気が付いた。
この桜は実在するものではない。
ホログラムだ。
「いかがですか?」
いつの間にやって来たのか、隣に立っていた販売員が声をかけてきた。
販売員は、商品を売りつけようと目をギラギラさせていた。
「当店が自信をもってお勧めできる逸品ですよ。
一台どうですか?
外に出なくても、花見ができますよ」
逃がさないとばかりに、営業トークを仕掛けてくる販売員。
今月はピンチなので、なにか買わされる前に逃げないと!
「残念ながら、桜は好きじゃないんですよ」
「ご安心ください。
風景を変えることもできますよ。
例えばこれ」
そう言いながら店員がリモコンを操作すると、桜は消え、その代わりに雄大な滝が現れた。
「凄いでしょう?
これ、ナイアガラの滝ですよ」
ホログラムであるが、水飛沫まで再現されている。
まるで現地にいるような臨場感。
何も知らなければ、いや知っていても本物と思ってしまう……
「どうです?
凄いでしょう?」
「たしかに……
昔現地に行ったことがあるんですけど、本物と遜色ありませんね。
……でもお高いんでしょう……?」
チラリと値札を見ると、お値段20万円。
お買い得ではあるのだろうが、ホイホイ買える値段ではない。
「お客様のおっしゃる通り、それなりにお値段は張ります。
しかし、こうも考えることが出来ます。
20万で世界旅行できるのだと……」
「と言うと?」
「サクラの名所やナイアガラの滝以外にも、世界の名所をホログラムで再現することが出来ます。
本物を見たことがあるお客様でさえ、納得される臨場感。
確かに生の体験に勝るものは無いでしょうが、お金も時間も有限です。
ですがこれが一台あれば問題は全て解決!
いつでも好きな時に、世界中を旅することが出来るのです!」
販売員の一言に、自分の心は貫かれる
たしかに20万で世界旅行は格安だ。
それに昨今の世界状況では、旅をするにも危険が多い。
これは買いだ!
「君に負けたよ。
一つ買おうじゃないか。
クレジットカードは使えるかな?」
「もちろんですとも!
お買い上げありがとうございます。
では少々お待ちください」
「え!?」
突然販売員の姿が前触れもなく消える。
予想外の事に驚いていると、販売員のいた場所に矢印が現れた。
「カウンターはあちらになります」
矢印からさっきまで話していた販売員の声。
そこでようやく気付いた。
「さっきの定員、ホログラムだったのか!?」
最近のAIは違和感がないレベルで会話できると聞いたことがあるけど、まさか店員の姿までホログラムだったとは!
「商品の準備が出来るまで、ここで待ちください」
矢印の先を目で追っていくと、そこには確かに椅子が置いてあった。
商品はホログラム、店員もホログラム、道案内もホログラム。
凄い時代になったもんだ。
「そのうち実店舗もホログラムになるんじゃないか?」
ついでに客もホログラムになるかもな。
そんな未来図を予想しながら、カウンターへと向かうのであった
4/15/2025, 10:04:34 PM