ハイル

Open App

【空が泣く】

 ほんの小さな雨がぽつりぽつりと頬を打つ。
 よく人はこれを小雨と呼ぶが、涙雨という趣ある呼び方もあるらしい。昔の人はこの雨を、空が泣いているように見立ててそう名づけたのだろうか。
 上空を見上げると、分厚く鈍色をした雲が空を覆い尽くそうとしていた。先程までは見えていた太陽の斜光も、出口をすぼめられ徐々にその姿を消していく。
 びゅう、と凄まじい風が私を包み込む。
 これは雷雨になるな。
 私は澄んだ思考でそんなことを考えていた。
 周囲を包み込んだ風がさらに勢いを増していく。
 曇天が降らす涙もいつの間にか大きな雨粒となっていた。まるで、空が私のために泣いているみたいだった。

「泣いてくれるのは君だけか」

 私は落ちゆく景色の中、空を見上げながらそう呟いた。
 グシャリ。嫌な音がこだまする。

9/16/2023, 11:26:58 AM