"愛を叫ぶ。"
今日は風が強い。通報を受けた場所は港。
その為風の強さが尋常じゃなく、戦闘中白波の飛沫が何度もかかった。
それはいいのだが、俺が変身を解いた瞬間に飛沫が上がって、その飛沫がもろにかかった。俺だけ海に近い所に立っていた。
自然に負けた。俺だけ。
「なんで……」
レーザーはゲラゲラ笑いながら病院に戻っていった。
──あいつ今度会った時脳天ぶち抜いてやろう。
潮水でしっとりと濡れ、束となった髪を伝って毛先から雫が落ちる。
地面を見ると、俺の周りを囲うように斑点模様ができていた。今も一つ、また一つと雫が落ちて地面に滲んでいく。
海の方へ身体を向けて、息を大きく吸う。
「なんで俺が変身解いたタイミングで上がるんだよー!」
「傍に立ってた俺も俺だけど!……なにもんなタイミングで上がらなくたっていいだろー!」
思わずやけになって不満を叫んだ。
「レーザーてめぇ後で締めるから覚えてろー!」
これはついで。
満足して「はぁ……はぁ……」と肩で息をする。
「え、と……。大丈夫ですか……?」
エグゼイドがおずおずと聞いてきて、ゆっくり振り向く。
口ぶりや表情からして、声をかけるタイミングをずっと見計らっていたようだ。
あと、急に柄にもなく叫びだした俺に気圧されたのもあるだろう。
息を整えて口を開く。
「あぁ、スッキリした」
上体を起こし胸を張るように腰に手を当てて、得意げな笑みを見せる。一応質問の答えにはなっていないが。
怪訝な顔をされるかと思っていたが、ゆっくり口角を上げて「それは良かったです」と、予想とまるで逆な表情を向けてきた。
「大我さんはもっと叫んだほうがいいです」
「はぁ?」
「ずっと前から『いつか病みそうだな』ってヒヤヒヤしてました」
「……」
昔『いつか心おかしくして壊れそう』と言われた事があったから何も言えずに口を閉ざす。
「だからたまには、周りを気にせず思っている事全力で叫んで下さい」
「……あっそ」
──まさか五つ年下の後輩にそんな事を言われるとは。
驚きと感心が混ざった短い言葉を吐く。
「ついでですから、ここで愛を叫びません?」
撤回。感心して損した。
「ほら、もう一回海向いて。動画撮って飛彩さんに送りますんで」
「誰がするかっ!」
今日一番の大声で反抗する。
こいつ、たまにこうやって悪ノリみたいな事をする。絶対あいつの影響受けてる。しかも年単位で受けてる。やっぱりあいつ締める。
「てめぇが心配しなくても、そういうのはちゃんと、言葉にして、面と向かって伝えてっから」
口ごもった言い方になって、後半聞き取れているか微妙。
「安心しました。それじゃあ、戻りますね」
と身を翻して小走りで離れていった。その背中に「転ぶんじゃねぇぞー」と仕返しで茶化す。すると傍に置いてあった空箱に足を引っ掛けて派手に転んだ。
「あーあ。言ったのに」
思わず言葉が零れる。
──そういう所は本当いつになっても変わらない。
──さて、早く帰って着替えてシャワーを浴びなくては。
身を翻し、帰路に着く。
たまには叫ぶのもいいか、と小さく鼻を鳴らした。
5/11/2024, 12:55:57 PM